防除が厄介なつる性植物 −クズ― クズが引き起こす問題とは

若山植物病院®️
若山 健二

はじめに

クズは多年生半木本性のマメ科のつる性植物で、日本人に身近な野草として万葉集や家紋、絵画の題材になってきた。古来、日本では、つるは布(葛布)、塊根はすりつぶし水にさらすだけで多量のデンプンが得られるため食用(葛粉)や薬(葛根湯)として活用され、家畜の嗜好性が良い飼料作物としても利用されてきた。しかし、近年では効率的で経済的にも優れる代替品の登場により繊維、デンプン、飼料としての利用価値がほとんどなくなり、各地で放任されたクズが大繁茂し、様々な問題を起こす強害雑草になっている。本稿ではつる性植物クズが引き起こす問題について紹介する。

つる性植物とは

つる性植物とは、丈夫な茎や幹を持たず、細くて長いつるを伸ばすことにエネルギーを傾け、フェンスや木々などに絡まりながら生長して光合成が有利になるように葉を広げて、光を独占する性質をもった植物の総称である。草本、木本ともにあり、巻きつき型、付着根型、巻きひげ型、寄りかかり型などがある。ツル科という植物の分類は存在せず、正しくは「つる植物」または「つる性植物」といわれる。
農業分野で問題となる「つる性植物」は、ダイズ畑のアサガオ類(1)、茶園のヤマノイモ(2)、サトウキビのヤブガラシ類(5)などが知られ、いずれも難防除雑草といわれる。身近なところでは公園や学校での景観植物に「つる性植物」の被害がみられるが、最も重篤な事例はクズが社会インフラに対して被害を及ぼすことである。

クズが引き起こす諸問題

鉄塔、電柱、電線、ソーラー発電など電力関係の社会インフラ設備にクズのつるが巻きつく被害が多く、保安上の理由から排除が必要とされている(図1)。鉄道、高速道路等でも通行や標識が見えにくいなど安全上の観点から障害のないように管理したいとの要望がある。河川でも根が浅いために洪水対策の治水面、環境面での対策が望まれている(3)。
米国では、日本から1876年のフィラデルフィア万国博で装飾植物として紹介され、1883年のニューオリンズ博覧会では、クズ(Kudzu)が有用な飼料作物と土壌改良作物として紹介されている。1940年には切土斜面の流亡を防ぐために実生苗7300万本、挿し木苗が8500万本分譲されたとの記録が残っている。クズの被覆面積は第二次世界大戦前には100万haを超えていたと考えられ、現在は約300万haに達し、農林業被害、不動産被害、防除費用の総額は年5億ドルと推計されている(4)。いまやクズは日本国内のみの問題ではなく、世界の侵略的外来生物100種に挙げられている。

  • 図1.電柱の支柱に巻きついて伸びるクズ

クズとダイズさび病

病気の伝染源という観点からクズの重要性を紹介したい。ダイズさび病(Soybean rust)は、2種のさび病菌 (東アジア起源のPhakopsora pachyrhiziと中南米起源のP. meibomiae)が引き起こす重要な病害で、特に東アジア起源のさび病菌が世界的に問題になっている。さび病菌は絶対寄生性で、ダイズが栽培されない冬季にはクズなどが中間宿主としての役割を果たしていることがわかっている(6)。特に、クズは大きな群落を形成し、病斑および夏胞子堆、冬胞子の形成がみられるため、年間を通して伝染源になりうると指摘されている(6)。
日本では東アジア起源のさび病菌によるさび病が知られており、特に関東以西で発生する。夏の終わりから秋になってから発生が顕著になるものの、幸いなことに収穫の被害はほとんどない(7)。一方で、同じ東アジア起源のさび病菌によるさび病がインド、アフリカに侵入後、2001年にはパラグアイ、ブラジルに、2003年にはアルゼンチンに侵入し、ダイズ生産に大きな被害を与えている。2004年には北アメリカにも侵入が確認された。南米では、ダイズの葉に褐色の斑点が生じ、落葉して収穫量が20〜89%も減少する(図2)。
南米のブラジル、アルゼンチン、パラグアイは国際市場に流通する大豆の46%を輸出する重要な産地であるため、これらの国々における大豆の持続的安定生産は極めて重要だが、2001年以降ダイズさび病がこれら南米各国の大豆安定生産上の大きな阻害要因となっている。これらの地域ではダイズさび病の防除のためにトリアゾール系殺菌剤(DMI 剤)とストロビルリン系殺菌剤(QoI剤)が大量に利用されているが、近年その効力の低下 (薬剤耐性菌の出現)が問題となっている。ダイズさび病を防ぐためには、冬季にクズを含む宿主が存在しないように除草して、病原菌の越冬を防ぐことが有効である。

  • 図2.ダイズさび病による圃場被害と罹病葉(ダイズとクズ)

引用文献

  1. 浅見秀則(2023)「温暖地の大豆作における帰化アサガオ類の総合的防除技術に関する研究」雑草研究 6(82): 60-67.
  2. 市原実ら(2020)静岡県内における茶園周縁部の植生および茶摘採面上の蔓性雑草の発生実態:雑草研究 6(53): 114-117.
  3. 伊藤幹二(2018)「葛の時代からクズの時代へ:歴史的考察」草と緑10(特集号):1-14.
  4. 伊藤操子(2018)「雑草科学に基づいたこれからのクズ対策」草と緑10(特集号):59-73.
  5. 比屋根真一(2017)「沖縄県のサトウキビ栽培における雑草防除」植物調節学会52(1): 48-51.
  6. 加藤雅康ら(2006)「ブラジルにおけるダイズさび病菌の宿主」国際農林水産業研究成果情報
  7. 山岡裕一(2019)「さび病菌の生態と防除」植物防疫73:114-121.
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ISSN 2758-5212 (online)