黒木 修一
はじめに
施設キュウリにおける病害虫の総合防除について、これまで害虫類対策(1)と病害対策を紹介した(2)。残る線虫類対策は2回に分けて紹介することとし、本報では線虫類に対する物理的・耕種的防除対策について述べる。
重要なキュウリの根の観察
キュウリに被害を発生させる線虫として一般的に認識されているのはネコブセンチュウ類(以下、線虫とする)であり、根に寄生して株の生育遅延や萎れなどを起こす(3)。株に萎れなどが現れるようになるのは多数の個体が寄生してからであるため、萎れるまで線虫の発生に気づかないことがある。
線虫は増殖力が強く、栽培期間中に行える卓効のある防除対策が無いため、わずかでも被害の懸念があるときには、作付け開始前に徹底した対策を実施する必要がある。生育が悪かったり、地上部病害の発生が多い株の根は、必ず引き抜いて確認し、線虫の被害が発生していれば次作の作付け前に防除対策を講ずる。
実施すべき物理的・耕種的防除
作付け前の防除は薬剤を使用することが多いが、可能な限り物理的・耕種的防除法を実施することをお勧めしたい。この理由は、線虫は作物の根が届く範囲に分布するため、薬剤を到達させられない土壌の深層部まで分布していることや薬剤だけに頼る防除では十分な効果が得られないことがあるためである。線虫が寄生できない対抗植物の利用(図1)や、線虫の活動を活発にして消耗させる圃場湛水(図2)、微生物の餌を土壌中に入れて土壌微生物の増殖により土壌中を酸欠(還元状態)にする土壌還元消毒(4)などは、圃場を面的に土壌消毒でき、やや深い部分まで防除効果が及ぶため、有効である。また、太陽熱土壌消毒(図3)も有効であり、経費の面からも実施したい方法であるが、圃場の外縁部は太陽熱では温度が上がりにくく防除効果が不安定になりやすいことや、地域やキュウリの作型によっては防除に必要な地温にならないため実施できないことがある。実施する場合は、アメダス過去データを用いた太陽熱利用の施設内土壌消毒の適用地域(5)を参照いただきたい。
一方、キュウリの根が土壌深くまで入るような畑地の施設で線虫害に困っている場合には、対抗植物の利用が最も効果的な手法になることがある。
忘れてはいけない圃場周囲の対策
線虫の防除を難しくしているのは、土壌中の線虫の垂直方向の分布であるが、水平方向の分布も忘れてはいけない。
線虫は雑草を含めた多くの植物に寄生する。施設の中や圃場の外縁部に雑草が残っている(図4)と、その雑草の根圏で線虫が生き残ることがあり、線虫の発生源となる。この部分は薬剤処理がしにくく、太陽熱消毒の防除効果が上がりにくい。これは圃場の周囲の雑草も同じである。例えば栽培施設内を隈なく防除したとしても、施設周囲に降った雨水が施設内に浸透してくることがあり、このときには線虫の移動能力とは別に、水の移動に伴って土壌消毒後の施設内に線虫が移動してくることになる。このため、圃場の外縁部だけでなく、周囲の雑草対策は重要で、施設栽培では、地上部害虫の侵入防止対策としても、周囲に抑草シート(図5)などを設置することは有効である。圃場周囲の広い範囲まで防除するのは難しいことが多いものの、施設の外縁部に雑草を放置しないことが必要である。