ミミズ堆肥による植物病害の軽減と予防 I. ミミズ堆肥とは?

大阪公立大学 農学研究科 東條 元昭*
大阪公立大学 農学研究科 川澄 留佳
大阪公立大学 農学研究科 岸 春希

*責任著者

はじめに

ミミズを利用して作られる堆肥は一般にミミズ堆肥(vermicompost)と呼ばれる。ミミズ堆肥は、ミミズとその関連微生物による非好熱性の酸化過程を経て有機物を腐熟させたもので、とくに非好熱性である点が発酵堆肥と異なる。ミミズは有機物を植物の生育に良好な栄養成分に分解するとともに土壌を団粒化する。そのためミミズ堆肥は植物生育促進や土質改善の効果を持つことが良く知られる。植物病害との関係については、豊田 (2009) がフトミミズを土壌に投入するとダイコン萎黄病菌の密度が低下することを明らかにするとともに、海外の先行事例としてミミズ堆肥のPythiumRhizoctoniaVerticilliumなどの土壌病原菌に抑制効果を示すことを紹介している(1)。著者らは廃竹材を粉末化しシマミミズに食べさせることでタケ由来ミミズ堆肥を作製し、その植物病害抑制効果の研究に取り組んできた(2)。
ここではミミズ堆肥とその植物病害軽減効果についての理解を深めるために、これまでの知見を取りまとめるとともに今後の展望を数回に分けて述べたい。初回はミミズ堆肥の歴史と作製方法の概略を紹介する。

ミミズ堆肥の歴史

アリストテレス(前384~322)はミミズを「大地の腸(intestines of the soil)」と呼んだ(3)。この記録に象徴されるように、ミミズが土壌の健康に果たす役割は古代エジプト、ギリシャ、ローマの時代から知られていた(4)。近代になって科学的にミミズ堆肥の評価を高めたのは進化論で著名なダーウィン(1809~1882)である。彼は40年以上にわたる自然界でのミミズの観察経験をもとに1881 年に”The Formation of Vegetable Mould Through the Action of Worms, With Observations on Their Habits.”(邦訳:ミミズと土)」を著し、土壌形成と栄養循環においてミミズが果たす役割の重要性を詳述した(5)。ダーウィンの科学的評価が契機となり、20世紀初頭からは動物の糞尿や、調理場や農場で排出される野菜や果物のくずをミミズで分解させる活動が世界中に広がった。とくに1940年代から米国を中心にミミズ堆肥の商業生産が進められた(6)。現在ではいくつかのミミズ堆肥の商業製品が土壌改良材として広く使用されている。

ミミズ堆肥の作製方法

ミミズ堆肥はミミズが動いて土壌中を移動するために切り返しを要しない。切り返しとは堆肥化を促進させるための定期的な攪拌作業のことである。一方、発酵堆肥は数メートルに積み上げた堆肥をショベルローダーなどで攪拌するのが一般的であり、大規模な堆肥作りに向く。ミミズ堆肥では、発酵堆肥の作業で行われる切り返しが不要であり、後述するように積み上げずに浅く広げるか層状にして堆肥化する。そのため家庭や学校などでの小規模での堆肥作りにも適する。ミミズ堆肥用コンポスターは市販もされているが自作も可能である。著者らは自作容器や市販のコンポスターでミミズ堆肥を作り、植物病害軽減効果の実験に使っている。例えば、自作容器では容量20リットルの容器に適度に湿らせた(水分量30~60%)市販腐葉土(広葉樹由来が好ましい)を容器の底から20 cm以下になるように入れ、市販の釣りエサ用ミミズを投入する。これを15℃~32℃の環境に置き、土壌容積の50~100分の1程度の野菜くず等を腐葉土表面に1週間に1回程度置く。暗所に約8~12週間静置するとミミズ堆肥ができる。コツは腐葉土(添加する野菜くずなど含む)が容器の底から20 cm以下(できれば15 ㎝以下)になるようにすることと、水分と養分(野菜くず等)を多く与え過ぎない、つまり好気環境に保つことである。著者らは、いわゆる「ミミズ御殿」と呼ばれる重層式の市販ミミズコンポスターも使っている(図1a~c)。このコンポスターは各層の底に格子状に穴が開いていて、この穴を通ってミミズが行き来できる。ミミズがその生育に最も適した環境に移動できるようにすることで、堆肥化が効率的に進む仕組みになっている。この装置ではミミズ堆肥浸出液(コンポストティー)を同時に得られる(図1d)。このコンポストティーは発病抑制効果を持つことが知られている(2)。また、小規模の教育目的等の実験では、食品用カップ(約500 ml容)をミミズコンポスターとして使っている。このようなミニサイズでも1年程度にわたってミミズは十分に育つ(図1e)。これらの方法で作られるミミズ堆肥の植物への影響や病害軽減効果については次回以降に述べたい。

  • 図1.市販の重層式コンポスターやアイスクリームカップを使った野菜くずのミミズ堆肥化
    a. 4段式コンポスタ―
    b, c. コンポスタ―の内部。格子状の仕切りを通ってミミズが行き来きし、野菜くずを分解する。
    d. 最下段のコックからのミミズコンポスト水浸出液の採取。植物病害軽減効果を示すことが知られている。
    e. アイスクリームカップを使ったミニサイズでのミミズ堆肥化。表面に野菜くずを置くとミミズが食べ、約2週間で分解される。
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ISSN 2758-5212 (online)