淡水性のクロベンケイガニによるイネの食害

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JA静岡経済連 市川 健*
JA静岡経済連 鈴木 秀規

*責任著者

静岡県西部の水田で、淡水性のクロベンケイガニ Orisarma dehaani (1)による食害が確認されたので概況を紹介する。

食害ほ場と被害の状況

食害が確認されたほ場は、静岡県袋井市の弁財天川(べざいてんがわ)の河口から3kmほど遡った支流の三沢川との分岐点に近い水田である。2024年6月14日に三沢川土手に隣接した水田の数条分のイネが、消失若しくは葉が切り取られたようになっているのが確認された(図1A,B)。また、畔にわずかに生えているヨシの葉でも同様に葉が切り取られているのが確認された(図1C)。
三沢川土手、水路及び畔には、多数の小型のカニが認められ、甲域の溝の形状等から、クロベンケイガニと判断した(図1D,E)。
現地で採取したカニを数頭、数株のイネ苗及び水田の泥とともに水槽に入れておいたところ、翌朝には苗がすべて消失しており、カニにより食害されたものと判断した。
三沢川土手及び畔には多数の穴が認められ、いくつかの穴にはカニが潜んでいるのが確認された(図1F)。被害を受けた水田は漏水も認められ、6月26日時点では水位が低下し地表面がかなり露出していた。

  • 図1.クロベンケイガニによるイネの食害
    A. 被害状況。畔に沿った数条のイネが消失している。左は三沢川の土手。
    B. 被害を受けたイネ。葉が水平に切り取られたようになっている。
    C. 畔に生えていたヨシ。イネと同様の被害痕が認められた。
    D. 切られたイネの葉を保持するカニ。摂食している瞬間の確認はできなかった。
    E. クロベンケイガニ。甲の幅は35~40mmほど。甲域の溝は深く明瞭。
    F. 畔にあけられた穴の様子。中央にある穴からはカニの姿が見える。

対応について

現場の状況より、カニの水田への侵入阻止や防除は困難と思われた。水田の漏水に対しては、畔波板の使用や定期的なカニ穴への対応が想定される。

クロベンケイガニについて

生息域は房総半島以南の太平洋沿岸、男鹿半島以南の日本海沿岸である。河口域及び河原のヨシ原などに棲息し、まれに水田に侵入し田植え後のイネを抜くなどとされている(1)。水田でのイネの食害については、淡水性のカニParathelphusa convexa によるインドネシアでの事例が報告されている。

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ISSN 2758-5212 (online)