ヘアリーベッチに大発生した灰色かび病

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東京大学大学院農学生命科学研究科
渡邊 健

ヘアリーベッチ(ナヨクサフジ)はヨーロッパや西アジア原産のマメ科植物で、主に飼料作物として栽培されている。また、根が土壌深くまで伸びる性質による土壌改善、雑草抑制や冬期の土壌風食防止、根粒菌による窒素固定も期待できる緑肥としても利用されている(1)。
筆者は、これまでカボチャ立枯病およびジャガイモそうか病の発生圃場にヘアリーベッチをリビング(ライブ)マルチや輪作作物として導入し、これらの土壌病害の発病軽減効果を認めた(2,3)。現在はサツマイモの栽培跡地にヘアリーベッチを短期輪作作物として導入し、持続的有機栽培技術の開発に取り組んでいる。今回、ヘアリーベッチに急激な枯れ込み症状が発生し、その原因を明らかにしたため、事例として紹介する。

日本植物病名目録や日本植物病害大辞典では植物名を「ヘヤリーベッチ」と記載されている。

ヘアリーベッチの耕種概要と枯れ込みの発生

茨城県かすみがうら市の試験圃場で、2023年9月下旬に早掘りのサツマイモ品種「あまはづき」を収穫した。収穫後の圃場をロータリ耕起・整地し、10月中旬にヘアリーベッチ品種「まめ助」を用い、手動式散粒機で10a 当たり4~5㎏量の種子を試験区全体にばらまき播種した。播種後、トラクタで軽くロータリ混和した。その後、ヘアリーベッチは順調に発芽・生育していたが、2024年3月、急に枯れ込む症状が発生し、瞬く間に蔓延した(図1)。

  • 図1. ヘアリーベッチに発生した枯れ込み

急激な枯れ込みの原因

茎葉を肉眼観察すると、褐色斑点病斑が多数認められ(図2)、病徴が進展すると茎葉は枯死に至る(図3)。病斑(図4)上には灰色のかびを生じ、株全体が枯死すると褐色~黒褐色に軟化腐敗した(図5)。
罹病葉を生物顕微鏡で観察したところ、灰色かび病菌(カビ、Botrytis cinerea)に酷似する分生子柄と分生胞子が確認された(図6)。
また、病斑部から分離されたのはほぼ単一種の糸状菌(カビ)であり、培地上における生育は旺盛で、灰色かび病菌と同様に灰白色の菌叢上に不整形な黒色菌核を生じた(図7)。これらのことから、ヘアリーベッチに発生した急激な枯れ込み症状は灰色かび病菌(4)によるものと判断した。
本病は高温多湿時に多発する(4)。試験圃場に近い土浦市の2024年度気象データをみると、1~3月の平均気温は平年より高く推移し、3月の降水量は平年の1.5倍となっている(表1)。したがって、この高温多雨条件が灰色かび病の発生に適した気象条件だったと考えられる。
筆者にとってもこのようなヘアリーベッチの壊滅的な被害はこれまで経験したことがない。サツマイモの持続的有機栽培技術の開発試験は継続するため、今後はヘアリーベッチに比べて灰色かび病に対する抵抗性程度が概ね高いとされるコモンベッチ(5)の導入を検討したい。

  • 図2. 茎葉に生じた多数の褐色斑点病斑
  • 図3. 枯死に至る茎葉
  • 図4. 灰色のかびが生じた病斑
  • 図5. 褐色~黒褐色に軟化腐敗した株
  • 図6. 罹病葉上に形成された分生子柄と分生胞子
  • 図7. 分離菌の菌叢と黒色不整形の菌核

 

  • 表1. 2024年1~3月の土浦市の気象データ推移
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ISSN 2758-5212 (online)