無人防除機を用いたナシ黒星病の防除は可能か?

茨城県農業総合センター病害虫防除部
小河原 孝司

はじめに

近年、カンキツではドローンを活用した省力的で効率的な病害虫防除技術が検討、開発されている(1)。しかし、日本ナシやブドウのように平棚で栽培され、棚上に多目的防災網が設置されている場合にはドローンの導入が難しく、新たな防除法の開発が必要である。そこで、自動走行が可能な農業用無人車(以下、無人防除機)を用いて、黒星病の最重要防除時期である春季の防除効果を従来の防除機であるスピードスプレーヤと比較した(2)ので紹介したい。

無人防除機とスピードスプレーヤの散布方法

無人防除機R-150(XAG JAPAN製)(以下、R150区)の薬剤散布は、機器背面の左右に取り付けられた2つの散布ノズルを上方向に向け、水平方向にスイングさせ(図1左)、走行速度を調整し、試験区内を3回走行させ、薬剤散布量をスピードスプレーヤと同量とした。なお、散布は専用アプリケーションで走行ルートを設定し、自動走行で行った。
一方、スピードスプレーヤSSA-E500DX(株式会社丸山製作所製)(以下、慣行SS区)の薬剤散布は、機器後方に取り付けられた薬液の送風用ファンを稼働させながら12個の噴口すべてから薬液を噴霧し(図1右)、エンジン回転数は1,500rpm、走行速度はLowの2速で行った。
また、薬剤防除を行わない無散布区を設置した。
試験は露地ナシ圃場(樹幹距離3.6m、正方植え、品種「幸水」および「豊水」主体に混植、樹齢は主として30年生、2本主枝)において反復無しで行った。

  • 図1.無人防除機R150(左)とスピードスプレーヤ(右)による薬剤散布の様子

薬剤の散布性能の比較

薬剤の付着性能を調査するため、両機器が走行する走行路直上およびナシ主枝直上の高さ1.8m(棚面)、2.5mおよび3.5mに水が付着すると黄色から青色に変化する感水紙(3cm×5cm、Spraying system製)を設置した(図2)。感水紙を葉に見立て、2枚の感水紙を感水面が外向きになるよう張り合わせ、感水紙の表面と裏面の付着量を調査した。試験では水を散布し、散布直後に感水紙を回収し、平均付着指数を算出した。 
R150区は、感水紙を設置したいずれの地点についても水の付着が確認されたが、機器からの距離が離れた主枝直上2.5mおよび3.5mに設置した感水紙の裏面での付着量が少ない傾向であった。その他の地点では均一に付着した(表1、図3)。一方、慣行SS区は設置したすべての地点で水のほぼ均一な付着が認められた(表1、図3)。
R150区の付着量が少なかった理由として、R-150は動力噴霧器(動噴)の水圧のみで薬液を遠方まで飛散させるのに対し、慣行SSは動噴の水圧に加え、送風ファンの風で葉を立たせながら薬液を飛散させることが要因と考えられた。

  • 図2. 薬剤付着性試験時の防除機の走行位置と感水紙の設置位置
  • 表1. 無人防除機(R150)とスピードスプレーヤ(慣行SS)における薬液の平均付着指数
  • 図3. 無人防除機(R150)とスピードスプレーヤ(慣行SS)の水の付着状況
    注)水が付着すると黄色から青色に変色.

黒星病の防除効果の比較

調査時の無散布区における黒星病の発病葉率は5.0~8.5%、発病果率は6.0~7.4%であった(表2)。走行路直上の発病葉率は、R150区で0.3%、慣行SS区で0.6%と同程度であったが、主枝直上付近の発病葉率は、R150区で1.3%、慣行SS区で0.3%であり、R150区がやや高かったものの、無散布区に比較して効果が認められた(表2)。また、発病果率は、走行路上および主枝直上付近のR150区、慣行SS区ともに0%であった(表2)。
主枝直上付近の発病葉率が慣行SS区に比べてR150区でやや高かった原因として、主枝直上2.5m位置での葉裏の薬剤付着指数が小さかったことから、棚面より上の位置の葉に薬液が十分付着しなかった可能性がある。一方で、主枝直上付近の果実は棚面付近に結実しているため十分な効果が得られたと考えられる。

  • 表2. 防除機の違いによるナシ黒星病の発病差異(調査品種:幸水)

おわりに

黒星病の最重要防除時期における無人防除機R-150による防除は、主枝直上の棚面より上の位置での防除効果が慣行SSに比べやや劣ったものの、果実位置では発病が認められなかったことから、その有効性が認められた。なお、試験を行った4月下旬の新梢長は20cm程度と短かったため、伸長量が増加する5月以降にR-150を利用する際には、薬剤の付着性能に加え、ナシで問題となる多くの病害虫に対する防除効果についても明らかにする必要がある。また、R-150のタンク容量は100Lで、現場で用いられるスピードスプレーヤの500~600Lに比べて小さく、1回の調整薬剤量で防除できる面積が小さいことがデメリットである。本防除法にドローンのような高濃度少水量散布の農薬登録が取得できれば散布時間の大幅な短縮に加え、1回の散布面積も拡大できる可能性がある。今後、ドローンの導入が難しい平棚の果樹栽培に効率的・省力的防除技術として無人防除機が導入されることを期待したい。

引用文献

  1. 岡崎芳夫(2023)「山口県における農薬散布用ドローンを活用したカンキツの省力・効率防除技術体系の確立」技術と普及 60:34-38.
  2. 小河原孝司ら(2024)「春季における無人防除機を用いたナシ黒星病の防除効果」茨城病虫研報63:13-17.
  3. 中尾茂夫ら(1995)「ブドウ枝膨病の発生生態と防除法」大分農技セ研報 25: 1–62.
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ISSN 2758-5212 (online)