イチゴうどんこ病および炭疽病の抑制にはLEDによるUV-B照射を活用できる

植物医師
内橋 嘉一

はじめに

イチゴの重要病害であるうどんこ病や炭疽病に対して、LED光源を用いた近紫外光(UV-B)照射による抑制効果を検討した。その結果、308nmをピークとするLED光源はイチゴうどんこ病を高度に抑制、炭疽病を抑制し、311nmをピークとするLED光源はうどんこ病を抑制した。

UV-B照射はイチゴ病害虫の抑制に有効 

イチゴうどんこ病は、苗で本圃に持ち込まれ、葉、果実、葉柄、果梗に発生し、多発すると大半の果実が出荷不能となり、経済的な被害が大きい重要病害である(1, 図1)。高品質のブランドイチゴはうどんこ病に弱い品種が多く、生産者の悩みの種となっている(1)。また、イチゴ炭疽病菌は、台風などの風を伴う降雨や頭上かん水により苗に感染し、大きな被害を引き起こす(2, 図2)。
これらの病害に用いられる殺菌剤では耐性菌の発生が問題となっている(3, 4)ため、イチゴうどんこ病に対し、280~315 nmの波長のUV-B照射による物理的防除が実用化され、国内で利用されている(5)。UV-B照射はバラうどんこ病など、幅広い植物病害に対して抑制効果がある。さらに、株元に光反射資材を設置し、葉裏にUV-B反射光を当てるとハダニの抑制にも有効である(6)。

  • 図1.イチゴうどんこ病
  • 図2.イチゴ炭疽病

LEDによるUV-B照射の抑制効果とその特長

一方、UV-Bの過剰照射は、イチゴの葉に傷害を引き起こすため、適切な照射強度になるように光源を設置する必要がある。近年、蛍光灯に比べ波長域を調整でき、出力制御や間欠照射が可能なLED光源のうち、UV-Bの波長領域を照射できる光源が開発されている。そこで、異なる波長域を持つ2種のLED光源(日機装株式会社製)を用い、狭い波長域におけるUV-B照射がイチゴうどんこ病、炭疽病の抑制および葉の傷害に与える影響を調べた(7)。
試験は、ピーク波長が308nmの光源(UVL308)と311nmの光源(UVL311)を用いて、既往の知見に準じた照射強度(6, 7)で、夜間3時間、毎日照射を行なった。うどんこ病はうどんこ病罹病株を置くこと、炭疽病は分生子懸濁液を噴霧接種することにより、それぞれ発病を促した。
その結果、うどんこ病の中発生条件で、無処理区の発病葉率が21%であったのに対してUVL308区で3%(防除価86)と発病を高度に抑制し、UVL311区の8%(防除価62)を上回った(図3)。一方、多発生条件の春期の試験では、UV-B照射単独では抑制効果が不十分であったので殺菌剤との併用が必要と考えられた(データ略)。
また、炭疽病については、無処理区の株当たり病斑数が37個であるのに対し、UVL308区は17個(防除価54)と抑制効果はあるものの、その程度は低く、UVL311区の効果は判然としなかった(図4)。炭疽病は降雨やかん水により発病部位から周辺に分生子が飛び散って伝染が引き起こされるため、感染圧が高く、UV-B照射単独で実用的な効果を期待することは難しいと考えられる。
UVL308の波長域のうち55%の光が、抑制効果があるとされる290 nmから310 nmの波長域に含まれたのに対して、UVL311では39%にとどまったことが両者の効果の差の要因であると考えられた。なお、いずれの試験でも葉の傷害などの生育障害は見られなかったのは、供試したLED光源の波長域がUV-Bの領域内の比較的狭い範囲に分布し、290nm以下の波長を含まないためと考えられた。

  • 図3.UVLのうどんこ病抑制効果
  • 図4.UVLの炭疽病抑制効果

今後の活用に向けて

照射強度を制御しやすいLED光源では、弱い照射強度にすることで株付近や葉裏からの近接照射も可能になると考えられるため、UV-B照射による傷害が問題となるメロン、トマト、ナスなど立性の作物や、ハダニが生息する葉裏へのUV-B照射が困難なバラなどの花き類等、幅広い植物種での活用が期待できる。

兵庫県立農林水産技術総合センター

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ISSN 2758-5212 (online)