ワンランク上の診断依頼をしよう2 ~問診で必要な項目~

植物医師
栢森 美如

はじめに

正確な診断を迅速に行うには問診が最も重要である。クライアントの協力があってこそ正確な診断に至る。問診の情報量が不足すると、誤診をしたり、原因不明に終わったり、経過観察が必要となったりと、診断結果が先延ばしになることがある。時に植物名も知らせずに写真のみを送ってきたり、罹病したサンプルのみを送ってきたりと、「専門家はすぐわかるはず」といった誤解もある。
私が長年大切にしている言葉は、「どんな名医でも情報が少なければ診断を誤る」である。例外的ではあるが、情報が十分であれば、テンサイ斑点細菌病(後述)のように、問診だけで診断できる植物病もある。
本稿では、診断依頼の際に役立つ周辺情報について解説したい。

1.診断に必要な情報

【発病経過】

診断依頼の際に持ち込まれる罹病サンプルは発病経過の一過程に過ぎない。サンプルからは、どのような経過をたどったか推察することはできない。植物病の初発時期から現在までの経過は、クライアントしか観察していない。症状の進行速度や、気温の変化と症状の関係、下葉から上位葉への広がり具合など、発病経過の詳細を把握することが診断に役に立つ。特に初発時期(=最初に症状を確認した時期)の情報は、植物病の種類により発病条件が異なるため診断のポイントとなるが、被害が進んだ枯死などの状態では選択肢を絞ることが難しくなることが多い。診断依頼の際に、発病経過を時系列で整理して提供すると正確かつ迅速な診断につながる場合が多い。

【農薬使用履歴、施肥の状況、品種】

農薬の使用履歴は、薬害の疑いだけでなく、使用薬剤の薬効スペクトラムから植物病の候補を絞り込むのに役立つ。また、「施肥の記録」は関係なさそうに思えるが、診断のキーになることもある。例えば、「葉が黄化し葉先が枯れた。微生物による病害ではないか?」という診断依頼があったが、病原菌のようなものは検出されず、即効性のない鶏糞肥料のみの施用であったため窒素欠乏による症状であろうと診断された。施肥情報が無ければ、地域慣行の即効性のある化学肥料という前提で診断したため正しい診断には時間がかかったであろう。
作物の品種も同様に重要な情報である。品種が持っている耐病性等の情報により診断を絞り込むことができる。忘れがちなのが接木苗の台木の品種であるが、台木品種は穂木品種では防ぐことができない土壌病害を防除するために用いられる。穂木の品種ばかりに意識が行ってしまうが、土壌病害が疑われる場合は、台木の品種名の記載は重要である。

【栽培地域の気象条件】

栽培している作物の「気象条件」は植物病を診断する上で重要である。発病経過と気象条件を照合することで診断結果が導かれることもある。栽培地域の最寄りのアメダスデータを得ることにより、診断に必要な情報量が増え、診断精度が高まり、防除適期を提案することも可能となる。
例えば、タマネギべと病は葉に水滴が一定時間存在し、気温が15℃前後であることが感染および発病の好適条件である。気象条件により感染に適した時期を推定することができ、感染前に予防的に防除を開始することができる。地域によって防除適期が異なるが、最寄りアメダス情報を活用することで、クライアントに最適な防除対策を提案することが可能となる。

【植物病発生マップ】

圃場内の植物病の発生分布を正確に把握することは、正確な診断につながる。発生マップを作製することで、迅速な診断につながる。露地かぼちゃを事例として紹介する(図1)。「かぼちゃ畑の入口だけ特にひどいのだが、葉のふちから黒くなってボロボロになっている」と連絡を受け、現場に行って「風害」と診断した。入口付近だけ重症だったのは、入口だけ畦の方向が異なっていたためだった。診断依頼時に詳細な発生マップがあれば、現場に行く必要が無かった可能性がある。
植物病の発生状況を注意深く観察し、マップを描いていただくことで、迅速な診断依頼ができる。

  • 図1.マップに必要な情報を書き込もう(かぼちゃの風害事例)。情報の少ないA図より、畦の方向など追加情報が書き込まれているB図のほうが正確な診断の助けとなる。

2.問診が重要な診断事例

テンサイの葉の斑点性病害には褐斑病(病原:かび)と斑点細菌病(病原:細菌)があり、症状が酷似しているため見分けが難しい。このような場合、問診が診断における重要な位置を占める。圃場の観察がしっかりなされていれば、発病状況や気象条件から問診のみでも診断が可能である。褐斑病は圃場全体に散在し、慢性的にゆっくり斑点の数が増加する。一方で、斑点細菌病はスポット状に発生し、スポットの中心株が重症化するが、離れた株では無症状の株も存在する特徴がある(図2)。また、褐斑病は高温で発生しやすく、斑点細菌病は低温で発生しやすい。気象経過(アメダス)も考慮して診断にたどり着くことができる。

  • 図2.テンサイの斑点性病害。症状(上部写真)は酷似していて区別がつかないことがあるが、発病株の分布により診断可能な例。
    A:褐斑病(かび)、B:斑点細菌病(細菌)

3.おわりに

たかが問診、されど問診。本稿では問診がいかに重要であるか解説したが、クライアントの協力と理解があってこそ、正確で迅速な診断に至る。
診断依頼の際、植物医師は雑談しているように見せかけて問診している時がある。例えば、「今年は雨が多いですね~。かぼちゃを収穫するタイミングが難しいですね」と会話を始め、降雨の直後は腐敗しやすいため収穫を避けるのが理想であるが、人材派遣サービスを利用しているがために降雨直後に収穫せざるを得ない状況など、様々な背景を知ることにより、クライアントに対応した対策を提案することができる。
診断の際に問診項目(図3)がどのように利用されるかご理解いただけただろうか?今後、植物医師や専門機関に診断依頼する際の参考にしていただきたい。

  • 図3. 問診票の例(文献1より転載)

引用文献

  1. 難波成任 監修・執筆 (2022)「植物医科学」養賢堂 pp.110-127.
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ISSN 2758-5212 (online)