三大植物寄生性線虫

農研機構植物防疫研究部門
植原 健人

はじめに

作物に被害を与える植物寄生性線虫として特に重要なネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウを紹介する(図1)。

  • 図1. 三大植物寄生性線虫

ネコブセンチュウ(Meloidogyne属)

ネコブセンチュウは農業生産上最も重要な植物寄生性線虫である。寄生された植物の根にこぶ(ゴール)を形成し、養水分を奪い、生育を阻害する。ネコブセンチュウ害は、根にこぶを形成するので比較的容易に確認できる(図2)。また、被害のある土壌からベルマン法で分離すると、ネコブセンチュウは2期幼虫が分離されてくる。2期幼虫が植物への感染ステージである。
最重要種であるサツマイモネコブセンチュウは700種以上の寄主植物が報告されており、非常に多犯性の有害線虫である。特にナス科のナス、トマト、ピーマン、ウリ科のキュウリ、メロン、スイカなどで被害が大きい。また、名前の通りサツマイモにも大きな被害を及ぼす。国内では他にもアレナリアネコブセンチュウ、キタネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウなど10数種が報告されている。

  • 図2. トマトとナスの根に形成されたこぶ(ゴール)

シストセンチュウ(Globodera属、Heterodera属)

シストセンチュウは寄主植物に黄化、落葉、すくみを引き起こすが、ネコブセンチュウと比較すると寄主範囲が狭い。シストセンチュウには6属あるが、農業上重要なのはGlobodera属やHeterodera属である。シストとは雌成虫が変化したもので、およそ0.2~0.6ミリメートルの球形またはレモン形をしており(図3)、中に数百もの卵が入っている。シストセンチュウも植物への感染ステージは2期幼虫のみである。
Globodera属は球形のシストを形成するシストセンチュウである。農業上の最重要種であるジャガイモシストセンチュウは、1970年代に北海道に海外から侵入した外来種であり、北海道を中心に発生地域を徐々に拡大している。ナス科作物であるジャガイモ、トマトなどに寄生する。また、別種のジャガイモシロシストセンチュウの発生が2015年に北海道網走市の一部圃場で確認されている。本線虫はジャガイモシストセンチュウ抵抗性のジャガイモ品種にも寄生でき被害を及ぼす。そこで、本線虫の防除法や抵抗性品種の開発が行われている(1)。
Heterodera属はレモン型のシストを形成するシストセンチュウである。農業上の重要種であるダイズシストセンチュウは、1915年に国内での被害が報告されているが、これは世界でも最初の本線虫に関する記録である。本線虫は、マメ科植物のダイズ、アズキなどに寄生し、世界的にダイズの最重要害虫である。また、テンサイシストセンチュウが2019年に長野県の一部で国内初確認されている。本線虫は世界的にテンサイの大害虫であるうえ、アブラナ科植物などにも寄生でき、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリーなどにも被害を及ぼす。農研機構などにより本線虫の生態・防除法の研究が行われている(2)。

  • 図3. Globodera属とHeterodera属のシスト

ネグサレセンチュウ(Pratylenchus属)

ネグサレセンチュウは、ネコブセンチュウやシストセンチュウとは異なり、雌の虫体が膨らむことなく、雌雄共に体は細長く、一生、典型的な線虫型のままである。また、特定の感染ステージはなく、根のどの部分からも侵入し、主に皮層部の細胞を摂食する。
農業上重要な種としてはキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウ、クルミネグサレセンチュウ、クマモトネグサレセンチュウなどがある。本属を代表する重要種はキタネグサレセンチュウで、非常に多犯性の有害線虫であり、根菜類(ダイコン、ニンジン、ゴボウなど)やレタス、イチゴなどで被害が特に目立つ。ミナミネグサレセンチュウも本属の重要種であり、西南暖地ではサツマイモ、サトイモ、ジャガイモなどの被害が報告されている。

おわりに

次回は、今回紹介した植物寄生性線虫の防除のポイントを紹介する。

引用文献

  1. 伊藤賢治(2024)「ジャガイモシロシストセンチュウ緊急防除の取り組み」植物防疫78:2-8.
  2. 岡田浩明・北林 聡・金子政夫・小松和彦・山岸 希・藤田裕樹・植原健人・与謝野 舜・酒井啓充・立石 靖(2024)「長野県で発生したテンサイシストセンチュウの生態と防除」日本線虫学会誌 印刷中
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ISSN 2758-5212 (online)