植物寄生性線虫とは

農研機構植物防疫研究部門
植原 健人

はじめに

土壌中に生息する線虫の大部分は、糸状菌や細菌などを食べながら生きていて、自活性線虫と呼ばれている。それらの多くは農作物に対して特別な害は及ぼさない。むしろ土壌中の有機物を分解し、自然界の物質循環に有益な働きをしていることが多い。しかし、生きた植物に寄生しないと生息できない線虫が一部存在しており、それが植物寄生性線虫である。植物寄生性線虫の中には、糸状菌と植物の両方に寄生できる線虫もいるが、植物寄生性線虫の多くは生きた植物だけで生育できる絶対寄生性の生物である。

線虫の分離・観察

作物に被害を及ぼす植物寄生性線虫がいるかどうか調べるには、畑から土壌を採取し、そこからベルマン法(図1)などで線虫を分離して顕微鏡観察する。初めて土壌線虫を観察した場合、多くの線虫は1ミリ以下で、糸状の透明な生物であり、目立った特徴もないので、どれが植物寄生性線虫でどれが自活性の線虫であるか識別できないと感じられるはずである。線虫の専門家に尋ねたくても植物寄生性線虫の専門家は少なく、身近にそのような知識を有する病害虫専門家がいない場合が多い。また、日本語で書かれた植物寄生性線虫の教科書、参考書、図鑑はほとんどなく、植物病理学の教科書にも数ページ割かれているのみである。害虫の研究者が担当で任される場合も多いと思うが、応用昆虫学の教科書にはまったく線虫の記述はない。
さて、そうはいっても植物寄生性線虫と自活性線虫を区別しなければ、作物への被害の要因が線虫によるものかどうか判断できない。植物寄生性線虫と自活性線虫の大きな違いは、頭部にある口の形態に特徴があり、植物寄生性線虫は植物からの吸汁摂取活動に適した針状の口、 すなわち‘口針’を持っている(図2)。自活性線虫の多くはこれを持たないか、持っていても貧弱な口針である。植物寄生性線虫は、この口針を前後に動かしながら植物体の表皮に差し込み、その先からペクチナーゼ、セルラーゼなども出して植物体中へ侵入していく。

  • 図1. ベルマン法の略図
    72時間後管びんに集まった線虫を回収する。
  • 図2. 植物寄生性線虫に観察される口針

植物寄生性線虫の被害とは

植物寄生性線虫の多くは植物の根に寄生する。一部、ハガレセンチュウやイネシンガレセンチュウのように地上部に寄生する種もいる。根への加害による作物の地上部の被害症状は、どちらかといえば生育不良など緩慢なものが多く症状の特徴も非常に乏しい。それゆえに、気づかれないままに地力低下、栄養障害、生理障害などと誤解されてしまうことがあり、いわゆる連作障害として片づけられてしまうことが多い。しかし、問題の線虫が増殖して被害が顕著になるころには、その撲滅は非常に大変になる。そんな気づかれにくい線虫害であるが、被害は意外に大きい (1)。植物寄生性線虫による作物への被害は世界で780億ドルと見積もられており、作物全体の平均減収率は12.3%というアメリカ線虫学会の報告がある。

おわりに

次回は、作物に被害を与える植物寄生性線虫として特に重要であるネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウについて紹介する。

引用文献

  1. 石橋信義 (2003)「線虫の生物学」東京大学出版会
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ISSN 2758-5212 (online)