農薬を上手に選択するために作用機作を知ろう

住化テクノサービス株式会社
石川 亮

はじめに

農薬を使いたいとき、何を基準に選んだら良いのだろうか。農薬の作用機作を知っておくと、農薬の特徴を知ることができ、効果の高い農薬を上手に選ぶことにつながる。

農薬の作用機作による分類

現在(2024年1月31日)、国内で登録されている農薬に含まれる有効成分(化合物)は510にものぼる(1)。これらの有効成分は、単独、もしくは他の有効成分と混合して、水和剤やフロアブル剤、粒剤などの剤型で製造され、4000を超える農薬製品(殺虫剤、殺菌剤、除草剤など)として登録されている(1)。これらのなかから、使用する作物、防除したい病害虫に適したものを選ぶことになる。
使用する農薬を選ぶ際には、殺虫剤抵抗性害虫、薬剤耐性菌、除草剤抵抗性雑草の出現リスクを考慮する必要があり、それらは農薬の有効成分の作用機作と深く関係している。国際団体CLI (CropLife International)が殺虫剤(2)、殺菌剤(3)、除草剤(4)の作用機作と薬剤耐性・抵抗性の発達リスクについてそれぞれ取りまとめている。RAC(Resistance Action Committeeの略称:ラック)コードは、農薬の作用機作ごとに割り振られたコード番号であり、農薬の抵抗性・耐性対策を効果的で持続可能なものにするために、薬剤選択の指針を使用者や関係者に提供することを目的としている。殺虫剤はIRAC、殺菌剤はFRAC、除草剤はHRACと称し、日本語版については農薬工業会が翻訳し提供している(5)。

殺虫剤の作用機作による分類

IRAC(Insecticide Resistance Action Committee)(2)による殺虫剤の分類と国内に登録のある主要な有効成分を表1に示す。
殺虫剤は、神経や筋肉に作用する薬剤が多い。例えば、よく知られている有機リン系(IRACコード:1B)、カーバメート系(IRACコード:1A)、ピレスロイド系(IRACコード:3A)、ネオニコチノイド系(IRACコード:4A)などの殺虫剤は昆虫の神経に作用する。これら薬剤には、即効性を示すものも多く、効果をすぐに実感できる。また、薬剤処理後に対象害虫が中毒症状となり死に至るまでの期間が短いことから、食害の被害も最少限に抑えられる。一方で、同じ系統の薬剤を連用することで抵抗性害虫が出現しやすくなるうえ、古くから開発され長い間利用されている有機リン系殺虫剤などでは、抵抗性害虫が同じ有機リン系の他の薬剤に対し抵抗性(交差抵抗性)を示してしまうこともある。したがって、同系統の薬剤の連用を避け、IRACコードの異なる別系統の薬剤とローテーションで使用することが大切である。
昆虫の成長や発育に作用する剤の中で、昆虫に特有の脱皮を阻害する薬剤は、人畜に対して極めて安全性が高い。一方で、遅効的な作用を示すため、薬剤処理後に対象害虫が死に至るまでの間に食害が進む。そのため、食の少ない若齢幼虫の段階で薬剤を処理することが大切である。

  • 表1.殺虫剤の作用機作と有効成分名

殺菌剤の作用機作による分類

FRAC(Fungicide Resistance Action Committee)(3)による殺菌剤の分類と国内に登録のある主要な有効成分名を表2に示す。
殺菌剤の作用機作は多岐にわたる。病原菌の細胞骨格に作用する薬剤のほか、呼吸阻害剤、ステロール(菌類の細胞膜を構成する成分)の生合成阻害剤、植物側の病害抵抗性を活性化する宿主植物防御誘導剤、病原菌の複数部位に作用する剤(マルチサイト接触活性)などが存在する。
これらのうち、呼吸を阻害するSDHI殺菌剤(FRACコード:7)やQoI殺菌剤(FRACコード:11, 11A)、ステロール生合成を阻害するDMI殺菌剤(FRACコード:3)、マルチサイト接触活性を示す殺菌剤(FRACコード:M01〜M07)は、適用病害の範囲の広さなどから、単剤としてだけでなく、混合剤でも広く使用されている。なお、マルチサイト接触活性を示す殺菌剤は耐性菌の出現リスクが低い。一方、SDHI殺菌剤やQoI殺菌剤は耐性菌の出現リスクが比較的高いため、過度な連用は避け、FRACコードの異なる別系統の薬剤とローテーションで使用することを心がけるべきである。

  • 表2.殺菌剤の作用機作と有効成分名

除草剤の作用機作による分類

HRAC(Herbicide Resistance Action Committee)(4)による除草剤の分類と国内に登録のある主要な有効成分を表3に示す。
除草剤の作用機作は、植物の生育に必須なアミノ酸や脂肪酸、セルロースなどの生合成を阻害する細胞代謝に作用する剤、光合成を阻害して活性酸素を生じることで作用する剤、細胞の分裂と成長に作用する剤に大きく分けられる。また、除草剤の場合、ある種の植物を枯死させる「選択性除草剤」と、全種類の植物を枯死させる「非選択性除草剤」に分けられる。選択性除草剤の例として、アセチルCoAカルボキシラーゼを阻害する除草剤(HRACコード:1)はイネ科植物に対する活性が高く、それ以外の単子葉植物や双子葉植物に対する活性は低い。逆に、植物ホルモンであるオーキシンに類似した活性をもつ除草剤(HRACコード:4)は、広葉雑草に対する活性が高く、イネ科植物に対する活性は低い。したがって、前者はダイズなどの広葉作物中のイネ科雑草、後者は水田等における広葉雑草の除草に使用される。

  • 表3.除草剤の作用機作と有効成分名

適した農薬を選択するには

対象となる作物や病害虫・雑草に適用登録のある農薬を選択することはもちろんのこと、作用機作から見た薬剤の特性を把握して、有効成分の特性が十分に発揮される製剤型の農薬製品を選ぶことが大切である。また、薬剤を複数回処理する必要がある場合には、異なる作用機作の薬剤をローテーションで使用することにより、薬剤耐性・抵抗性の発達リスクを抑え、薬剤の効果を高く保つことができる。なお、同じ作用機作であっても、化学構造が大きく異なる場合には、抵抗性を示す度合いが異なる場合もあり、販売会社からの情報などを確認し、場合に応じて剤を選定する必要がある。

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ISSN 2758-5212 (online)