植物寄生性線虫の防除のポイント

農研機構植物防疫研究部門
植原 健人

はじめに

植物寄生性線虫の防除については化学農薬(殺線虫剤)に頼るところが大きい。殺線虫剤の使用に際しては定められた適用作物、使用量、使用方法を守ることが必須である。一方、殺線虫剤以外にも線虫抑制作物・捕獲作物の利用や土壌還元消毒(1,2,3)など耕種的防除法が線虫防除に有効であることが知られている。ここでは殺線虫剤以外の防除法について紹介する。

線虫抑制作物・捕獲作物

線虫抑制作物や捕獲作物は、休閑もしくはそれ以上の線虫密度低減効果を示す植物で、対抗植物とも呼ばれている。例えばネコブセンチュウの防除には、線虫抑制作物としてクロタラリア・スペクタビリス、クロタラリア・ジュンセア、フレンチマリーゴールド、アフリカンマリーゴールドなどが種苗会社各社から市販されており利用されている。ネグサレセンチュウにも、ネコブセンチュウと同じくマリーゴールド類(アフリカンマリーゴールドとフレンチマリーゴールド)が効果を示すことが知られている。またネグサレセンチュウの中でも重要なキタネグサレセンチュウに対して、エンバク野生種(Avena strigosa)の栽培が密度低減効果を示すことが知られているため、各社から野生エンバクが市販されている。また、シストセンチュウに関しては、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウに対して有効な捕獲作物である野生トマト(4)や、最近国内に侵入が確認されたテンサイシストセンチュウに対して有効な捕獲作物である緑肥用ダイコンの一種も市販され始めている(5)(図1)。また、詳しくは記述しないが、圃場に生息する有害線虫が寄生・増殖できない抵抗性品種や非寄主作物の栽培も線虫抑制作物・捕獲作物の栽培と同様に線虫密度を抑制するには効果的である。
注意したいのは、これらの対抗植物はそれぞれ特定の線虫種に対してのみ効果を示す点である。同じ属の線虫でも、種によっては使用できる線虫抑制作物・捕獲作物が異なる場合もある(6)。そのため圃場に発生している有害線虫種を特定してから対抗植物を決める必要があり、線虫種の同定はその防除を行う上で重要である。線虫同定は、かつては形態観察による診断・同定しかなく、標本を作成して、マイクロ単位の計測を行うなど簡単ではなかった。しかし、現在では属まで特定できれば、その後はPCRや遺伝子配列から種を同定することができるようになってきており、PCRやリアルタイムPCRを用いた方法が重要な診断手法となってきている(7)。

  • 図1. テンサイシストセンチュウ捕獲作物、緑肥用ダイコン「シスクリーン」
    提供 カネコ種苗(株)

土壌還元消毒

土壌還元消毒は施設ハウスなどで行う防除法であり、土壌病害の防除にも利用される(1,2)。ふすま、米ぬか、低濃度エタノール、糖蜜、糖含有珪藻土などの資材を圃場に混和後、かん水を行い、透明フィルムで覆い、約20日間ハウスを密閉して行う。地温の確保が重要であり、6月から9月に行うと効果が高い。土壌を還元状態にすることによって有機酸や鉄イオンなどが生じ、線虫や土壌病原菌などの密度を減らすことができる。農研機構では糖含有珪藻土を用いたネコブセンチュウの防除効果についてまとめているので参照されたい(3)(図2)。

  • 図2. 糖含有珪藻土による還元消毒の効果

おわりに

植物寄生性線虫は土壌中で根に寄生しているものが多く、地上部の観察では被害の把握が困難であり、土壌から線虫を分離して顕微鏡観察をしなければならないなど、非常にとっつきにくい面があるが、近年では線虫の専門家でなくても同定できる遺伝子診断法も開発されてきている。また、植物寄生性線虫は、他の土壌病害とも関係しており、複合病の原因ともなりえる。線虫の専門家だけでなく、害虫や植物病理の専門家も線虫に関心を持っていただければ、生産現場で問題となる線虫の診断・防除の技術普及がさらに進むと考えられる。

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ISSN 2758-5212 (online)