パセリ栽培で問題となる病害とは?-疫病診断のポイントと防除-

香川県農業試験場病虫・環境研究課
森 充隆

はじめに

パセリの原産地は地中海沿岸といわれ、わが国では1700年初頭にオランダゼリとの記載があるものの(1)、栽培の記録は、千葉県において大正初期頃からとされている(2)。光沢のある緑と縮みのある葉が特徴で、洋風料理の彩りや刺身のつまとして和風料理にも欠かせないもので、その独特の風味から天ぷらの食材としても使われる。
パセリは冷涼な気候を好み、生育適温は15~20℃で、比較的栽培しやすい。全国的に広く栽培されているため、地域によって作型は多様で、年間を通じて収穫・販売されている。そのため、作型によって問題となる病害虫の発生には違いがある。
香川県での主な作型は、5月~7月に播種・育苗して、8月~9月に定植し、11月末にビニール被覆を行う夏まきハウス栽培である。本稿では、この作型で問題となる疫病(病原菌:Phytophthora nicotianae)の診断ポイントと防除対策について紹介する。

発生環境と被害

定植後の夏季から秋季の高温時に発生し、地際部や根が軟化腐敗するために地上部が褐変して萎凋、枯死する(図1A)(3)。病原菌の生育に最適な温度は28℃と高温で、土壌や降雨水を介して遊走子嚢(図1B)から出た遊走子によって急速に発生が広がる。西南暖地の作型である夏まき栽培ではビニール被覆前の秋雨時に大きな被害をもたらす。

  • 図1.パセリ疫病の病徴と病原菌
    A.疫病により萎凋したパセリ
    B.疫病菌の遊走子嚢

診断のポイント

発病株は、地際部の根が侵されることで株全体が萎凋する。その後、根および地際茎部が軟化腐敗し、茎部は図1Aのように褐変を伴う。診断は、顕微鏡観察によって、菌糸や遊走子嚢を確認することで可能である。ただし、疫病菌よりも生育スピードの速い二次的に感染したフザリウム菌に覆われ、診断を誤ることがあるため注意を要する。極力初期の病徴の株を迅速(半日以内)に顕微鏡で観察することが大切である。フザリウム菌による病害とは効果的な薬剤が大きく異なるため、病株採集から顕微鏡観察までの時間を考慮しつつ、顕微鏡診断が可能な公的な機関や植物医師®への診断依頼を行ってもらいたい。

防除対策

発生を確認してから卓効を示すパセリに適用のある薬剤はないため、産地では、植え付け前の土壌消毒および定植時の粒剤による株元散布により防除対策が行われている。しかし、薬剤による土壌消毒では処理後の土の移動による再汚染や、粒剤による防除では残効が短期間であるために処理しても多発してしまう事例があった。一方、本病の病原菌と同じキュウリ疫病菌の耐熱性は比較的低く、40℃で72時間、45℃で17時間の温度確保により死滅する(4)。そこで、夏まき栽培において、夏期に天のハウスビニール被覆を残しておいて、ハウス密閉条件での太陽熱を利用した土壌消毒の防除効果について検討を行った。西南暖地である香川県の平坦地での地温の確保状況を調べ、併せて防除効果を調査した。その結果、夏期の8日間の処理で、地下30cmの深さでも病原菌の死滅に充分な温度・積算時間を確保することができることが明らかとなった(表1)。太陽熱による土壌消毒効果は薬剤による土壌消毒よりも安定しており、産地でも利用・普及している。

  • 表1.西南暖地(香川県平坦地)におけるハウス密閉条件での地温確保状況

引用文献

  1. 貝原益軒(1709)「大和本草」京都大学理学研究科所蔵 第213画像目
  2. 酒井俊昭(2004)「野菜園芸大百科[第2版] パセリ」農山漁村文化協会
  3. 赤山喜一郎・鈴井孝仁・植松清次(1986)「パセリーの新病害「疫病」の発生」日植病報 52(3):533.(講要)
  4. 清水寛二(1985)「太陽熱利用による露地の土壌病害対策 アブラナ科野菜の根こぶ病・各種野菜の苗立枯病、フザリウム病」今月の農薬-農業技術と資材-特別増大号29(4):113-117.
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ISSN 2758-5212 (online)