イチゴ乾腐病は窒素肥料の多施用で被害が多くなる

東京大学大学院農学生命科学研究科 市川 和規*
元山梨県総合農業技術センター 舟久保 太一
山梨県総合理工学研究機構 長坂 克彦

*責任著者

はじめに

植物病の発生が肥培管理に影響されることは広く知られている。イネいもち病(カビ、Pyricularia oryzae)は窒素過多により、トマト輪紋病(カビ、Alternaria linariae, Alternaria solani)は生育期の肥料切れで、トマト褐色輪紋病(カビ、Corynespora cassiicola)は窒素過多や肥料切れにより発病が助長される(1,2,3)。また、アブラナ科根こぶ病(アメーバ鞭毛虫、Plasmodiophora brassicae)の発生は、酸性土壌で激発し中性から弱アルカリ性土壌で効果的に抑制される(4)。イチゴ乾腐病(カビ、Fusarium solani)は根冠部や根部が侵される土壌病害(5,6)であるが、窒素過多で発病するので本稿ではこれについて紹介する。

イチゴ乾腐病とは

夏秋採りのイチゴ栽培で8月~10月頃に発生する。はじめ葉枯れが下葉の葉縁より発生し、しだいに上葉に広がり、やがて株はしおれ枯死する(図1A)。根冠部では皮層周囲が黒褐色に乾燥気味に腐敗(乾腐)する。根も黒褐色に乾腐し、軟化腐敗はしない(図1B)。症状は疫病とよく似ているが、病患部の黒褐変が軟化腐敗せず乾腐する点で区別できる。

  • 図1. イチゴ乾腐病の発病状況
    A. 葉枯れが下葉の葉縁よりはじまり、上葉まで枯れ上がった発病株
    B. 根冠部と根が黒褐変に乾腐した発病株

イチゴ乾腐病と多肥栽培

乾腐病の発生圃場では多肥栽培が行われていたため、発病との関係が考えられた。そこで、標準施肥量(N:P2O5:K2O=20:20:20)とその3倍量の施肥でイチゴ苗を栽培し、それぞれに乾腐病菌(Fusarium solani)を接種したところ、標準施肥量区では発病は見られなかったが、3倍量施肥区で認められた。そこで、多肥栽培に関連する窒素、リン酸、カリウムの肥料3成分と土壌EC(土の電気伝導度のことで、濃度障害発生の目安にもなる)について発病との関係を調べた。窒素多肥区では、乾腐病が発病株率60%と多発し、栽培終了時に、植物が利用可能な無機態窒素が標準施肥区の8倍近く残っていた。カリウム過多区では、わずかに発病がみられ、交換性カリウムが標準区の2倍弱残っていた。リン酸過多区では、発病は認められず、土壌分析値は標準区とほぼ同様であった。また、土壌ECはいずれもイチゴの栽培適正値の範囲内であった。これらのことから、乾腐病の発病は窒素過多により助長されるものと考えられる。なお、交換性カリウムの過多も発病に影響する可能性が示唆された(表1)。

  • 表1. イチゴ乾腐病の発病と肥料成分および土壌ECの関係
このページの先頭へ戻る
ISSN 2758-5212 (online)