德丸 晋虫
はじめに
アカオビアザミウマ(アザミウマ目:アザミウマ科)は、北中南米、アジア、中央および南アフリカのマンゴー、カカオ、グアバなどの熱帯作物において発生が確認されている(1)。我が国では、南西諸島から本州にかけて分布しており、沖縄県、鹿児島県奄美大島、東京都小笠原諸島および高知県のマンゴー、グアバ、カキなどの葉や果実を加害している(2)。一方で、筆者は、2022年に京都府内の街路に植栽されたモミジバフウに本種の発生を確認した(3)。本稿では、モミジバフウにおける本種の加害様式、京都府のモミジバフウにおける発生状況と防除の実際について報告する。
アカオビアザミウマとは
成虫(図1)の体長は約1.2〜1.5mmで、体色は暗褐色〜黒色である。頭部および前胸背板の表面、ならびに第1〜3腹節までには不明瞭な赤い縁取りがある。幼虫(図2)の体色は黄色で腹部には明瞭な赤い線がある。成虫および幼虫ともに尾部を上げることがある。
モミジバフウの被害
成虫および幼虫は主に葉裏に寄生し、幼虫は集団で加害する。加害された葉は徐々に艶がなくなり、全体的に灰色から暗褐色に変色する(図3)。被害が激しくなると樹全体の葉が暗褐色に変色し、落葉する(図4)。
京都府における発生状況と防除の実際
2022年9〜10月に京都府内(図5)の街路や道路施設に植栽されているモミジバフウについて、本種の成虫および幼虫の発生の有無と葉の被害程度を調べた。その結果、本種によるモミジバフウへの被害は、18地点のうち10地点で確認され、平均被害樹率は55.6%、平均被害度は28.3であった(表1)。亀岡市以南では、樹の半数以上の葉が落葉する被害が見られた。調査本数は少ないが、京丹波町以北では、被害および成幼虫の発生は見られなかった(表1)。また、本種の成虫および幼虫は、南丹市以南で確認され、モミジバフウの本種による被害は京都府の南部地域を中心に発生していると考えられた。
これまで我が国における本種に対する防除の報告は、マンゴーでの散水による防除効果(4)のみであり、薬剤感受性を含め知見は乏しい。現在、本種の成虫および幼虫に対する薬剤殺虫効果については調査中である。なお、京都府内のモミジバフウでは、本種に対してジノテフラン液剤を6月下旬に樹幹注入することにより高い防除効果が得られている。
おわりに
本種は、農作物ではマンゴー、グアバ、カキなどの葉や果実を加害する(2)。京都府内のモミジバフウが植栽されている街路の近くには、カキが栽培されており、今後は人家の庭を含めたカキにおける本種の発生について警戒する必要がある。また、本種は元々亜熱帯から熱帯地域に生息する(1)が、京都府における本種の越冬の可否については不明である。そこで、本種の越冬の可否ならびにモミジバフウにおける季節的発生推移について詳細な調査を実施したい。
京都府内のモミジバフウには、美しい紅葉が見られる鑑賞スポットとして、近年SNSなどで注目されている場所がある。2023年11月現在、当該場所では、本種の加害による葉の変色は確認されていない。しかし、今後は本種の分布域拡大と多発生に起因する葉の変色や早期落葉によって観光資源としての価値が失われてしまうかもしれない。したがって、農作物と観光資源を保護するために、本種の発生動向に注意するとともに、本種の防除対策を確立する必要がある。
引用文献
- Kudo, I. (1992) Panchaetothripinae in Japan (Thysanoptera, Thripidae) 1. Panchaetothripini, the Genera Other than Helionothrips. Jpn. J. Ent. 60: 109-125.
- 山下 泉(2012)「アカオビアザミウマ」病害虫・雑草の情報基地(2024年1月アクセス)
- 德丸晋虫・中島優介・藤本顕次(2023)「京都府の街路樹モミジバフウにおけるアカオビアザミウマの発生」関西病虫研報65: 76-78.
- 小谷野伸二(2001)「小笠原における熱帯果樹を加害するアザミウマ類の発生状況と防除」関東東山病虫研報48: 143-146.