レター
東京大学大学院農学生命科学研究科
前島 健作
植物ウイルス病(1)による被害といえば、生育への悪影響や収量の低下が真っ先に思い浮かぶが、実際にはそのほかにもさまざまな要素がある(図1)。なかでも食味への悪影響は古くから知られていて(2)、農作物としての市場価値を大きく低下させてしまう場合がある。今回、ウイルス病が食味に及ぼす被害の一例として、実体験を紹介する。
今回紹介するのは、昨年、学内の圃場で栽培されていたズッキーニに自然発生したウイルス病である。およそ半数の株が全身に激しい萎縮症状を示しており(図2)、葉はモザイク状に退緑して展開不良となり(図3)、果実の形はいびつになっていた(図4)。なお、イムノクロマト法でキュウリモザイクウイルス(CMV)に陽性だったため、CMVによるモザイク病と断定した。
感染株でも比較的生育の良い果実が生っていたため(図5)、試しに健全な果実と食べ比べてみた。シンプルに輪切りをソテーして食べてみたところ、食味の違いは歴然で、感染ズッキーニの果実は甘みやうまみがなく、かなり味気なかった。筆者の味覚にバイアスがかかっている可能性を排除するため、家族によるブラインドテストをしたところ、同じ感想が得られたことを補足しておく。
今回紹介したようなウイルス病による食味への被害は、実際に食べ比べてみるまでわからないため、言わば「見えない」被害である。一般に、ウイルス病は菌類病や細菌病と違って腐敗性の症状を引き起こさず、明瞭な症状が現れない場合もあるため、我々が認識できていない「見えない」被害は、実際にはかなり多いと思われる。
一方で、植物ウイルスは多種多様であり、農業生産に役立つウイルス(3)の探索も進められている。今後は、農作物の食味を向上させるウイルスが発見されることを期待したい。