岩手県農業研究センター 熊谷 拓哉
盛岡農業改良普及センター 中野 央子
中部農業改良普及センター西和賀普及サブセンター 佐藤 陽菜
*責任著者
はじめに
現在、農薬の空中散布の主流は無人ヘリコプターであるが、今後、機体が小型で比較的安価な無人マルチローター(以下本記事では「無人マルチローター」のことを「ドローン」と表現する)の利用拡大が予想される。農業用ドローンで農薬散布した場合、散布幅が狭く、航続時間が短いなどのため単位面積あたりの作業時間は無人ヘリコプターに比べやや多くなるが、動力噴霧機による地上散布と比較すると概ね 1/10 に短縮される(1)。一方で、散布した農薬の作物への付着性や防除効果に関する情報はあまり見あたらない。ここでは、同一メーカー製のドローン(YAMAHA YMR-08)と無人ヘリコプター(YAMAHA FAZER R)の散布特性と防除効果の違いを検討した事例を紹介する。
防除効果の違い
同一メーカー製のドローンと無人ヘリコプター(図1、表1)を用い、同一薬量を散布した場合の防除効果の比較結果を表2にまとめた。水稲の斑点米カメムシ類および小麦の赤かび病を対象としたドローンによる農薬散布は、無人ヘリコプターによる散布とほぼ同等の防除効果が得られた。しかし、防除対象部位が繁茂した茎葉内部の「莢(さや)」となる大豆の紫斑病やマメシンクイガを対象としたドローン散布は、無人ヘリコプター散布と比べて莢への薬液の付着が少なく、効果が劣る傾向にあった(表2)。
無人航空機による農薬散布では、ダウンウォッシュ(回転翼によって生じる下方向へ吹き下ろす気流)が小さい場合、散布された薬液は風が強いと影響を受け散布ムラが生じやすい(1)。また、ダウンウォッシュは一般に機体重量に比例して大きくなる。今回検証したドローン(YAMAHA YMR-08)の重量は、比較した無人ヘリコプター(YAMAHA FAZER R)重量の1/3程度とされ(表1)、ダウンウォッシュは無人ヘリコプターに比べて小さい。
効果の側面からみたドローンによる農薬散布の注意事項
今回検証した同一メーカー製のドローンと無人ヘリコプターについてみると、水稲の斑点米カメムシや小麦の赤かび病防除のように、防除対象部位(穂)が茎葉よりも上部にあり、薬液を付着させやすい場合、散布特性の違いはあまり意識する必要はないと考えられる。一方で、繁茂した茎葉内部に薬液を到達させたい大豆などの作物に対して、重量が軽くダウンウォッシュも小さいドローンを用いる場合、防除効果が低くなる可能性が示唆された。また、散布薬液の粒径は無人ヘリコプター(FAZER R標準登載ノズル)に比較してドローン(YMR-08標準登載ノズル)散布の方が細かくなりやすく(図2)、風の影響を受けやすい。このため、風の弱い条件(地上1.5mにおいて3m/s以下)で散布することが重要である。なお、ドローン散布に使用できる農薬については、農林水産省のサイトに掲載されているので参照されたい(4)。
※2024年2月29日に公開となった記事ですが、誤りがあったため修正、追記し2024年3月29日に再度公開しました。