佐藤 政宏
はじめに
ダラースポット病は近年の競技志向の高まりにあわせた管理手法や使用農薬の変化により、ゴルフ場では1980年代頃から多発がみられ重要視されるようになった。本稿ではダラースポット病の特性と耕種的防除を含めた防除法について述べてみたい。
ダラースポット病の特性
発病適温は15~30℃、発病適期は初春から晩秋と、シバの生育期は常に発病しやすいと考えてよい。本病害の病原は糸状菌(長らくSclerotinia属の菌類と考えられていたが、解析の進歩により現在ではClarireedia属と同定され、ベントグラスやライグラス等の寒地型シバはC. jacksonii、ノシバやコウライシバ等の暖地型シバではC. monteithianaが病原菌)(1,2)であり、我が国で緑化に利用されているシバのほとんどが罹患する。発病初期は病名のとおり1ドル硬貨のサイズ(27.5 mm)ほどの小型で円形の窪んだパッチ症状である(図1A,B)。激発しパッチが融合するとシバ面に凹凸が生じ、特に繊細さを要求されるゴルフ場ベントグリーンでは競技性を著しく損ねてしまう(図1C,D)。また他のシバ地でも美観の喪失等、商品価値を低下させてしまう。
発生が顕在化している具体的要因としては、以下の高品質化を目指した管理が考えられる。本病害は窒素肥料の施用を控えることにより多発するが、ゴルフ場のベントグリーンでは、ボールの転がりをスムーズにするための一つの方策としてシバの過繁茂を抑えるために窒素肥料を軽減する傾向にあり、これが発生助長の大きな要因と考えられる。その証拠に筆者の経験上、サッカー場のようなスパイク等による物理的損傷の多いシバ地では、回復のために窒素肥料をゴルフ場のグリーンに比べ多投して管理しており、本病害の発生は少ない。また、環境負荷低減のための減農薬や、浸透移行剤の普及により、TPNやチウラムのような基幹防除剤の使用が減少したことなども要因としてあげられる。ゴルフ場での使用農薬の変遷は、本誌2024年2巻1号レターでも紹介しているので合わせてお読みいただければと思う (3)。
防除の要所
年間を通して発病適期ではあるが、晩秋の防除には注意を要する。コウライシバやノシバのような暖地型シバは休眠期の直前のため、殺菌剤等の施用で病害の伸展を抑えたとしても回復前に生育が停止してしまい、翌春まで窪んだパッチ症状が残り、長期間にわたり美観を損ねてしまうことがある。寒地型シバでも気温の低下により生育速度が遅くなる時期のため、回復に時間がかかってしまう。発病の前兆として空中菌糸が見られる(図2)。しかし、ピシウム病など、よく似た前兆を呈する病害もある。時期、気象条件や施肥薬の状況等を考慮して総合的に判断し誤認のないようにしたいが、目視だけでの識別は極めて困難である。最も確実な方法は検鏡となるが、ほとんどの現場には顕微鏡がないと思われる。判断に困る場合は、スペクトラムの広いものやピシウム病に効果のある農薬を混用して対処するのが望ましい。
防除の主流は化学農薬の施用であるが、先述したとおり基幹防除剤の有効活用がポイントになる。DMI剤等の浸透移行剤の連用により感受性低下等が見られる場合は、基幹防除剤を組み込んだ使用農薬のローテーションを検討する必要がある。
耕種的防除
最後に化学農薬に頼らない防除法も紹介してみたい。おもにゴルフ場のベントグリーンになるが、近年インターシーディングという技法が盛んに利用されている。これは既存のシバ地に同じ草種の別な品種を播種して品種転換をはかるものである。本病害の抵抗性品種がいくつか上市されているので、この技法を使ってそれらの品種に転換をはかってゆく。通常は張替えの施工期間中シバ地が利用出来なくなるが、この方法をとれば利用しながらの施工が可能である。欠点としては長期間を要することである。1回の播種では定着率が悪いので、定期的に数回にわたり施工して、3~5年程度をかけて取り組む必要がある。
千葉農試がゴルフ場減農薬管理の手法の一つとして開発した尿素液の施用は発病抑制効果がある(図3)(4)。この尿素液は窒素肥料であり、過剰投与は軟弱徒長等により他の病害の発病助長や競技性の低下をまねいてしまうため、高度な肥料コントロールの技術が要求される。この技法は千葉県が刊行していたグリーンチャレンジ誌に詳細が載っている。現在、絶版で入手は困難であるが、興味を持たれた方はお問い合わせいただければ、ご紹介することは可能である。
引用文献
- 農研機構 飼料作物病害図鑑 「ベントグラスの病害」(2024年11月25日閲覧)
- Takao Tukibosi, Toshihiro Hayakawa, Koya Sugawara (2020) Re-identification of Clarireedia spp. causing dollar spot disease of turfgrasses in Japan. 芝草研究 49(2): 71–77.
- 佐藤政宏 (2024) 「ゴルフ場ベントグリーンの殺菌剤今昔物語」 i Plant 2(1).
- 梅本清作ら(1995) 「尿素施用によるベントグリーンにおけるダラースポット病の防除効果」 芝草研究 24(1): 13–17.