大橋 俊子
はじめに
カラスムギは、世界各地の麦作で問題となる一年生冬雑草である(図1)。茨城県においても、麦類の主産地である県西地域を中心に広域でカラスムギの発生が見られており、多発圃場では収量や品質が低下し、収穫が放棄されることもある。
カラスムギは1個体あたり100粒以上の種子を生産する。成熟直後のカラスムギ種子は休眠状態にあるが、休眠の程度は圃場によって異なり、休眠が深い種子が多い圃場は年明け以降も長期にわたり出芽が続く傾向がある(1)。また、多くの畑雑草の出芽深度が5cm程度であるのに対し、カラスムギは土中10~20 cmのかなり深い位置から出芽可能である(2)。雑草の防除対策として最も多く採られる方法は除草剤による防除であるが、カラスムギでは、前述の「長期にわたり出芽が続く傾向」と「出芽深度の深さ」が相まって除草剤が効きづらい状況にある。
そこで本稿では、除草剤以外の防除方法に注目し、カラスムギの生理生態を活かした耕種的防除法として不耕起管理と休耕(作目転換)による防除効果について紹介する。
1.不耕起管理
カラスムギの種子は、高温・乾燥条件で休眠覚醒が進行する。耕起や整地を行わずに作物を栽培または圃場を管理する不耕起管理により、カラスムギの当年産種子が地表面に留まることで夏季の高温・乾燥を受けやすくなり、休眠覚醒が促進されて出芽が前進化する。茨城県内のカラスムギが発生した現地圃場における調査では、夏季を不耕起管理した区(不耕起区)の方が、耕起管理した区(耕起区)に比べて、カラスムギ発生本数は小麦播種前に多く、小麦播種後に少なかった(図2)。麦類の播種前に出芽したカラスムギ個体は耕起または非選択性除草剤散布によって容易に防除可能であるため、麦播種前の一斉防除を効率化できる。また、不耕起管理によって土壌が硬くなり、除草剤が効きづらい土中深い位置からのカラスムギの出芽も抑制できる(図3)。本技術では、麦作や夏作の大豆作の播種時に不耕起播種機を必要とするが、他の追加コストは不要である。なお、茨城県農業総合センター農業研究所(以下、茨城農研)の所内試験では、通年の不耕起管理を1~3年継続しても、麦作や大豆作の収量や品質への影響は少なかった。
2.休耕(作目転換)
カラスムギ発生面積割合が50%以上の圃場(図4)では、麦作を継続しながらカラスムギを減らすのが極めて困難であり、新たなカラスムギ種子の生産をストップさせるためには休耕が有効である。茨城農研の所内試験において、小麦を一作休耕し、休耕期間中の12月、3月、6月に耕うんを行った後、再び作付けした区の小麦成熟期におけるカラスムギ残草量は、小麦連作区に比べ1.7%と大幅に低減した(3)(図5)。本試験では一作のみ休耕したが、カラスムギの土中における生存年数は2年程度であるため(2)、2作休耕するとより高い防除効果を得られると考えられる。生産現場では麦を休耕し、ばれいしょやかんしょに作目転換して翌作のカラスムギ発生量を大幅に減らしている事例もある。
おわりに
茨城農研では、今回紹介した技術の他、プラウ耕、溝施肥、収穫物の調製等の各種技術についても有効性を確認し、効果およびコストと共に掲載したカラスムギ防除技術マニュアル「麦圃場におけるカラスムギの防除技術Ver.1」をホームページ上で公開している(4)。生産現場で実施可能な防除技術をできるだけ組み合わせることで効果の上乗せを図り、カラスムギ対策に取り組んでいただきたい。
なお、本マニュアルではカラスムギ対策として手取り除草を扱っていないが、徹底防除には手取り除草が不可欠である。手取り除草の際は、カラスムギの脱粒が始まる出穂後5週目までに実施し圃場外に持ち出して処分することで、翌年の発生源を圃場に残さず防除できると考えられる。また、カラスムギは出穂後3週目から出芽能力を獲得するため、カラスムギの多発により、やむを得ず収穫を放棄する場合は、出穂3週後までにすき込むことで次年度の発生源を減らすことができると考えられる。