ピーマン栽培におけるウイルス病の発生生態とその対策

植物医師
櫛間 義幸

はじめに

ピーマン栽培ではしばしばウイルス病の発生が問題となる。適切な防除対策を講じるには的確に病原ウイルスの診断を行うことが重要である。ところが、診断キットで判定できるウイルスは限られており、正確に診断するには農業試験場等の専門機関に頼らざるをえない。しかしながら、数種のウイルス病については、症状や圃場における発生生態等を注意深く観察して診断し、防除対策を行うことで、その後の被害の蔓延を最小限にとどめることが可能である。

ピーマンモザイク病(トウガラシ微斑モザイクウイルス:PMMoV)  (図1)

PMMoVに対して強度の抵抗性を示すL3遺伝子を有する抵抗性品種の栽培が多いので通常問題となることは少ないが、一部の産地では抵抗性を打破するウイルス系統が確認されている(1)。
発病すると葉や果実にモザイク症状を示し、収量や品質低下を招く。病原ウイルスは容易に接触伝染するため、気づかないうちに収穫や整枝など管理作業で蔓延させてしまうことが多い。本ウイルスは土壌中に長期残存し、伝染源となるため連作障害の一因となる。

  • 図1.PMMoVによるピーマンモザイク病

ピーマン黄化えそ病(トマト黄化えそウイルス:TSWV)  (図2)

はじめ新葉が黄化し、凹凸や褐色の小さなえそ斑点を生じる。続いてモザイクや奇形、えそなどを伴って、早期に落葉する。新葉が小型化し、茎や葉柄にも褐色〜黒褐色のえそを生じて新梢が萎縮枯死するため、地域によっては「脳天病」とも呼ばれる(2)。しばしば葉や果実に輪紋症状を示す。また、茎部のえそが地際部の維管束におよぶと株全体が枯死することもある。病原ウイルスは、アザミウマ類(ミカンキイロアザミウマ、ヒラズハナアザミウマなど)により媒介される。幼虫期にウイルスを吸汁獲得し、羽化した成虫が永続的に伝搬する。管理作業による伝染はほとんどない。また、種子伝染や土壌伝染はしない。(3)

  • 図2.TSWVによるピーマン黄化えそ病
    A.発病初期(モザイクや凹凸)  
    B.発病初期(えそを伴う黄化)
    C.発病後期(顕著な輪紋、芯止まり) 
    D.初期の輪紋症状
    E.果実の奇形  
    F.ヒラズハナアザミウマ(体長約1.3mm内外)。花弁に確認されやすい

    (宮崎県病害虫防除・肥料検査センター原図)

黄化えそ病に酷似したピーマンウイルス病  (図3)
(ジャガイモXウイルス:PVX, ジャガイモYウイルス:PVY)

図3は筆者が現地で経験した新梢の枯死症状である。上〜中位葉にかけて黄化やモザイク、葉脈壊死が観察され、生長点付近の茎葉がえそを伴って枯死しており、いわゆる脳天病らしい症状であった。このためTSWVが疑われたが、ウイルスの分離や接種試験、電子顕微鏡観察などの結果、PVXの単独感染やPVYとPMMoVの混合感染による黄化えそ症状であった。(4)。PVXは接触伝染により、PVYは主としてアブラムシ類によって伝染する。なお、類似症状はPVYの単独感染によっても生じることが確認されている(5)。

  • 図3.黄化えそ病に酷似したウイルス病

圃場における発生生態

これらのウイルス病のほ場での発生生態にはやや違いが認められる。PMMoVやPVXは、汁液で接触伝染しやすいため、収穫や整枝などの管理作業で容易に広がるのが特徴である(図4上)。このため畝に沿って前後に連続して発病株が見られることが多く、発生時には既にまん延してしまっている事も少なくない。
これに対して、TSWVやPVYは、アザミウマ類やアブラムシ類など微小害虫によって伝染するため、初発生は圃場の出入り口やハウスのサイド、ハウスの谷下などの開口部付近に見られることが多い。管理作業で伝染する頻度は少ないので、媒介する害虫の防除がなされている場合には散発的な発生にとどまる傾向が見られる(図4下)。

  • 図4.圃場の発生生態

PMMoV、PVXの防除対策

両ウイルスとも管理作業により容易に伝染するため、発見後は抜根除去するとともに、発生を確認した畝や棟は作業手順や器具を分けるなど、未発生箇所への蔓延防止に努める。特にPMMoVについては、土壌伝染を防止する観点から早期に栽培を中止して作物を鋤込み、残渣の腐熟を図るなどウイルス密度の増加を防ぐとともに、栽培品種の抵抗性因子やウイルス系統を確認して、次作への対策を講じる必要がある。(1,6)

TSWV及びPVYの防除対策

先にも述べたが、両ウイルスは媒介昆虫によって伝染することから、アザミウマ類、アブラムシ類の防除が第一に必要である。これらは圃場内外の雑草にも潜むため、圃場周辺の除草や、施設栽培の場合にはハウスの開口部に侵入防止網を設置するなどの対策が重要である。
また、TSWVはナス科のほか、キク科、マメ科、アカザ科など広範な植物に、PVYは主にナス科植物に感染することが知られており、発生圃場近辺の雑草には保毒の恐れがある。

おわりに

ここで紹介したウイルス以外にもピーマンに感染するウイルスは数多く存在する。ウイルスの正体を突き止めることは根本的な対策をとるうえで大切なことであるが、生産現場においては、速やかに蔓延を防止することのほうがより重要である。防除手段は共通することが多く、また基本的な事項とも重なる。普段から圃場をよく観察し、発病株を早期に発見し、圃場からの除去に努めることがウイルス病防除のポイントである。

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ISSN 2758-5212 (online)