若山 健二
はじめに
前稿ではクズが放置され過繁茂した場合の問題として、社会に与える被害とともに、海外ではダイズの病害の伝染源(中間宿主)になることを紹介した(1)。社会に与える被害としては、クズの急速な被覆力による高架塔や電柱、高速道路の法面、鉄道などのインフラへの機能阻害と、それに伴う経済的損失、およびその除去や修復に要する費用などが挙げられる(2)。本稿ではクズの管理手段について紹介する。
クズの管理手段
管理は目標設定を行い、それに付合する制御手法を選択する。クズに被覆され、森や林の景観が損なわれたり、ツバキやマツなどの有用植物が被覆され生育を阻害される景観を改善したいのか、つるが伸長することによる電力関連や高速道路、鉄道などインフラ施設への経済的損失を減ずることを目標にするのかを明確にする。クズは難防除雑草だが、完全枯殺することがすべてではなく、目標に合わせ生育をコントロールするだけでも目標は達成される。目標達成の手法としては、①機械的手法、②物理的手法、③化学的手法がある(2)。
① 機械的手法
景観を改善するために行われ、刈り払い機による刈取り、ナタなどによるつる切り、人力によるつるの引きむしりをする。ただし、先方を切ると子づるの総伸長量、節発根率ともに切断しない場合より大幅に増大してしまう。また、引きむしりは8月までは根も一緒に抜ける、あるいは抜けなくても枯死するが、10〜11月にすると根が抜けずに生き残り、翌年の生長が無処理より大きくなってしまう。このように、見た目は改善されるものの、かなりの労力をかけても元に戻ってしまう場合があることに留意する必要がある。
② 物理的手法
群落の上から防草シートを敷設して95%以上の遮光をして光合成を制御し、物理的圧迫を行う。ポリエチレン、ポリプロピレンを材料とする不織布を用いるため、敷設にはそれなりの費用と労力が掛かることになる。経年劣化した場合の再敷設も考慮しておく必要がある。
③ 化学的手法
除草剤を用いた防除では、非選択性土壌処理除草剤、非選択性茎葉除草剤等が定着した大きな群落に対しては有効である。しかし、クズを対象に登録のある除草剤を使用したとしても、全面散布すればクズ以外の植物も非選択的に面的に枯死させてしまうので、景観上も社会的に受け入れられない場合が多い(2)。クズのみを防除する方法として薬剤を含浸させた木針を切株に刺す方法も製品化されているものの、作業員がしゃがんで切株を探しながらドリルで穴を開けて木針を差し込む作業が必要であり、相当な労力を要する。そのため、新たな除草方法が期待されている。
新たな管理技術
筆者は、様々な絆創膏やテープ材を製造するメーカーであるニチバン(株)と協力して、除草剤成分を粘着部分に含有させた全く新しい農薬テープ製剤を開発中である。対象とする雑草にテープを貼付するだけで、周辺の植物にはほとんど影響を与えずにピンポイントで対象雑草のみを抑制・枯死させる。ヒトの貼る心臓薬や禁煙用ニコチンパッチのように貼って薬剤を植物体内へ吸収移行させるDDS(ドラッグデリバリーシステム)を利用し、対象雑草の茎部に貼付して効果を得る(図1)。この技術のポイントは、散布に比較して面積あたり1/10〜1/50以下の使用薬量で済むため、環境への負荷が大幅に低減され、景観的にも雑草のみが枯死して周辺植物への影響がない点であり、社会的に受け入れられやすいと考えられる。除草効果は使用する除草成分の性質に依存するが、枯死、あるいは萌芽抑制による奇形という形で発揮され、その後の生育を大きく抑制する(図2)。
刈込みや除草剤等による一般的なクズ防除の時期は、その年の発生状況に合わせて、主に春と秋の防除が推奨されている。一方、除草テープ剤の場合は除草成分を根茎に輸送するために、根部に養分を蓄える時期である落葉期〜休眠期に処理する(図3)。そのため、作業が他の防除時期と重ならず、作業の平準化も可能になる。
貼付作業は作業員への暴露がほとんどないこと、地上から1m程度のクズのつるに貼付するだけなので作業量が少なく、特別な器具も必要ないことがメリットとして挙げられる。農薬成分の部分処理で効果を発揮する理由は、葉から吸収させるよりも茎の皮層から維管束へ直接効率的に成分輸送できることにある。成分は貼付直後から吸収され、1ヶ月程度でほぼ全量吸収されテープには残存しない。テープ自体は生分解性で環境への影響も少なく設計されている(図1)。クズに限らず、対象雑草のみを枯死させることができる新たな技術である。近年、問題になっている帰化雑草は人力で引き抜くことが推奨されているが、除草テープを貼付することで、既存植物には影響を与えずに対象雑草の根まで確実に枯死させることが可能である。この技術は、浸透移行性のある殺虫剤、殺菌剤、植物調節剤への利用も可能な手法であり、今後の新たな農薬の利活用方法として期待される。
引用文献
- 若山健二(2024)「防除が厄介なつる性植物 -クズ- クズが引き起こす問題とは」i Plant 2(9).
- 伊藤操子(2018)「雑草科学に基づいたこれからのクズ対策」草と緑10(特集号):59-73.