生咲 巖
はじめに
キウイフルーツは中国原産のマタタビ(Actinidia)属の植物で、1980年代頃から日本に本格的に普及し始めた。普及のきっかけは、過剰生産に苦しんでいた西南暖地のミカン農家の転換作物として導入が進められたことにある。導入初期から現在に至るまで、緑色系品種(A.delisiosa種)の「ヘイワード」の栽培が多いが、近年では甘みが強く果肉も柔らかい黄色系・赤色系品種(A.chinensis種)の栽培も増えてきている。今回は、キウイフルーツで問題となる特徴的なバクテリア(細菌)病の病徴や発生しやすい条件、防除方法について紹介する。
キウイフルーツで問題となるバクテリア(細菌)病
(1)かいよう病
病徴
キウイフルーツかいよう病は、新梢枯死や樹体枯死を引き起こしてキウイフルーツ生産に深刻な被害を与える重要病害である。本病の主な病徴は、枝幹部における枝の萎凋および枯死(図1A)、枝からの赤色または黄白色の粘質液の漏出(図1B)、葉における不整形の褐色斑点(図1C)である。また、花蕾が腐敗することもある(図1D)。枝幹部における症状は2~4月上旬頃に確認され、葉における症状は4月中旬頃~梅雨頃まで発生する。なお、降雨等で葉の表面が濡れている場合には、発病部位から細菌が溢れ出てくることがある。このような病徴が認められれば本病と診断できる。
病原菌の特徴と発生しやすい条件
本病の病原菌はバクテリア(細菌)の一種Pseudomonas syringae pv. actinidiae で、病原性の異なる5系統(biovar 1,2,3,5,6)が知られている(1)。1984 年に日本で初めて報告された系統(biovar 1)に加えて、現在国内では他の系統(biovar 3,5,6)も発生している(2,3,4)。特に、2014年に国内で初発生が報告された系統(biovar 3; 通称Psa3系統)は、病原性が強く世界のキウイフルーツ生産で猛威を振るっており、国内における被害も大きい。
病原菌の生育適温は、系統によらず10~20℃程度であり、それ以上の高温では菌の増殖が抑制されたり、死滅したりする。このため、キウイフルーツ樹体内における病原菌の密度は秋~春に高く、夏に低くなり、夏は病徴の進展が抑えられる。主な感染時期は、発芽期から開花期まで(3月上旬頃~5月下旬頃)と収穫後から発芽前まで(11月中旬頃~2月頃)である。本病の主な伝染経路は、風雨による伝染、接触伝染および苗木伝染であり、剪定作業や風雨、雹害・凍害などによって生じた葉や枝の傷口から病原菌が侵入する。
本病に対する抵抗性には品種間差が見られる(5)。香川県内で栽培されている主な品種では、2倍体の赤色系品種(A.chinensis種)は本病に弱く、一度発病してしまうと適切な防除を行っても栽培を維持することができず十分な収量が見込めない。一方、6倍体の緑色系品種(A. delisiosa種)や4倍体の黄色系品種(A. chinensis種)などは本病への抵抗性が比較的強く、適切な防除がされていれば収量を確保できる(図2)(6)。
(2)花腐細菌病
病徴および発生しやすい条件
キウイフルーツ花腐細菌病は、花や花蕾に発生して果実の生育に直接影響する病害で、古くから国内で大きな被害をもたらしてきた。主な病徴は、花および花蕾の腐敗や(図3A)、葉に生じる斑点である(図3B)。発病は開花期が中心で、発病花は開花しても十分に花弁が開かず、雄ずい(葯)が褐変腐敗する。発病の激しい花はすべての雄ずいが褐変ないし黒変し、未開花のまま落花(果)したり、小玉果や奇形果(図3C)となって品質が低下する(7)。葉の斑点症状はあまり生ずることはないが、かいよう病の症状と酷似するために見分けにくい。本病の病原菌は花蕾周辺で増殖して水滴で運ばれて伝染することから、開花期に雨が多いと発生が増加する。本病の病原菌として複数のバクテリア(細菌)(Pseudomonas marginalis pv. marginalis, Pseudomonas syringae pv. syringae, Pseudomonas viridiflava)が報告されている。
防除対策および注意点
(1)かいよう病
本病は薬剤散布のみならず、耕種的対策や圃場衛生管理、こまめな園地のモニタリング等を組み合わせて防除することが重要である(8)。
1. 本病の病原菌は風雨で拡散して傷口から感染するため、葉や枝に傷がつかないよう防風対策(防風ネット、防風垣等の設置)を行う。また、剪定後の切り口には必ず癒合促進剤を塗布する。
2. 管理作業を行う際には、剪定バサミやノコギリ等に付着した病原菌が樹体に接触して感染するのを防ぐため、70~80%のエタノールや200 ppm (0.02%) 以上の次亜塩素酸ナトリウムで用具をこまめに消毒する。
3. 感染した枝や葉は本病の伝染源となるため、病原菌が風雨で拡散しないよう確実な除去が必要である。特に発病した枝は、発生枝の元まで戻って剪除する。その際、残渣は圃場内に放置せず埋没または焼却処分する。病徴が著しい感染樹は伐採する。
4. 感染が確認された雄樹から採取した花粉は、病原菌に汚染されている可能性があるので使用を控える。
5. 落葉痕や剪定時の切り口を介した主枝や枝幹部への感染リスクを抑えるため、無機銅剤やその混合剤等を剪定後に予防的に散布する。
6. 発芽期以降に葉や新梢、花蕾に症状が見られる場合、圃場でのまん延を防止するために感染部位(樹)の切除を行う。加えて、周辺樹を含めて抗生物質や無機銅剤の散布による防除を行う。
(2)花腐細菌病
1. 剪定などの基本管理作業はかいよう病に準ずる。
2. 本病は降雨や高湿度環境下で発生しやすいため、密植園や過繁茂園では間伐、適正な剪定を行い、通風や採光を良くするとともに、排水不良園では溝きりなどを行い排水をよくし、園内湿度を下げる。
3. 樹勢の強い園で多発する傾向があるので、多肥や強剪定は避け、樹勢を安定させる。
4. キウイフルーツの花蕾の感受性は、緑色系品種(A. delisiosa種)では5月上旬(開花20日前)より高まることから、予防をかねて無機銅剤や抗生物質などの防除を4月下旬から5月上旬に実施する。
5. 環状剥皮を満開約1か月前から3週間前に5 ㎜幅で処理することで本病の発病を抑制することができる(9) 。
引用文献
- 澤田宏之・藤川貴史(2019)「キウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)における遺伝的多様性」日植病報85:3–17.
- 澤田宏之ら(2014)「Pseudomonas syringae pv. actinidiae の新規 MLSA グループ(Psa5系統)によって Actinidia chinensis に発生したかいよう病」日植病報80:171–184.
- 澤田宏之ら(2016)「キウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)の新規biovar(biovar 6)の特徴」日植病報82:101–115.
- 越智直(2019)「キウイフルーツかいよう病の Psa3 系統の発生の経緯と現状について」植物防疫73(2):72–75.
- 青野光男ら(2019)「愛媛県におけるキウイフルーツかいよう病(Psa3 系統)の現状と対策」植物防疫73(2):76–80.
- 生咲巖(2024)「植物防疫講座 病害編-57 キウイフルーツに発生する病害の発生生態と防除について」植物防疫78(8):473–479.
- 三好孝典(2000):「キウイフルーツ花腐細菌病の発生生態と防除に関する研究」愛媛県立果樹試験場研究報告14:1–63.
- 農林水産省(2015)「キウイフルーツかいよう病Psa3系統の当面の防除対応マニュアル(暫定版)」
- 梶谷祐二(1993)「キウイフルーツ花腐細菌病に対する耕種的防除」植物防疫47:177–179.