ホップの主要病害虫について

岩手県農業研究センター
岩舘 康哉

はじめに

ホップはアサ科に属するつる性の多年草である。5 mを越える専用の棚で栽培され(図1)、雌株の未受精の毬花(まりばな)(図2)がビールの原料として利用されている。国内大手ビールメーカーでは、原料ホップの9割以上を輸入品に頼っているものの、近年は地ビールの人気の高まりや、地域資源としてのホップの活用場面の増加等を背景に、国産品の需要も増えつつある。冷涼な気候で栽培しやすいとされるホップは、北海道および東北地方が主産地である。ここではおもに東北地方で問題となる病害虫について紹介する。

  • 図1. 棚栽培のホップ
  • 図2. ホップの毬花

べと病

カビ(糸状菌:Pseudoperonospora humuli)による病害。ホップ栽培で最も警戒が必要な病害である。生育の全期間にわたって、分生子を飛ばして伝染を繰り返す。曇雨天が続くと発生しやすい。病原菌が感染すると、若い葉では緑色が抜けたような症状を示し(図3A)、その後褐色の角型の病斑(図3B)を生じる。主茎伸長期の発病葉の裏側には、灰黒色の分生子が葉脈に沿って形成される(図3C)。生育初期に感染すると、主蔓や側枝が黄化して奇形になる。分生子が毬花に感染すると褐変し(図3D)、毬花の発病がひどい場合は収穫皆無となる。病原菌は根株や残渣で越冬して翌年の伝染源になる。生育の全期間にわたって発病するため被害が大きくなりやすい。毬花被害を抑えるための薬剤防除のタイミングとして特に重要なのは主茎伸長期~毬花肥大期である。

  • 図3. べと病の症状
    A. 若い葉に生じた退緑症状    
    B. 葉に生じた褐色の角型病斑
    C. 葉裏の葉脈に沿って生じた灰黒色の分生子  
    D. 毬花の被害

うどんこ病

カビ(糸状菌:Oidium sp.)による病害。本病は、1936年に報告されて以来、国内での発生記録はなかったものの、2002~03年にかけて突如国内各地のホップ産地で大発生した(1)。現在も問題となっている病害であり、若い葉と毬花に白い粉状の斑点が発生する。発病には品種間差があり、国内の契約栽培ホップで主力の「信州早生」、「キリン2号」では過繁茂した若い葉に白粉状の病斑が認められる程度であり、葉の発病そのものはそれほど多くない。(図4A)。そのため、毬花の発病をみてはじめてうどんこ病の発生を認識する場合も多い(図4B,C)。多発すると毬花の肥大が抑制されて褐色になり(図4D)、収量や品質低下の原因となる。毬花被害を抑えるための薬剤防除のタイミングは開花期~毬花肥大期である。

  • 図4. うどんこ病の症状
    A. 葉に生じた白色粉状の病斑
    B. 毬花に生じた白色粉状の病斑
    C. 毬花全体の発病
    D. 褐変した毬花

灰色かび病

カビ(糸状菌:Botrytis cinerea)による病害。病原菌は多犯性で、ホップ以外の数多くの植物にも感染する。周辺雑草等から分生子が飛散し、ホップの毬花に感染する(図5A,B)。うどんこ病に効果のある薬剤の多くは本病にも有効であるため、現在では、うどんこ病の防除をしていれば本病のみが問題となることは少ない。

  • 図5. 灰色かび病の症状
    A. 発病毬花
    B. 褐変部にみられる分生子の形成

ハダニ類(ナミハダニ、カンザワハダニ)

ハダニ類は葉や毬花に寄生する。葉はかすり状となり(図6A,B)、毬花は黄変~褐変する(図6C)。多発するとクモの巣状に糸を張り巡らせる(図6C)。収穫間際に多発した場合は毬花が黄変し、しだいにカサカサに乾いて、「赤花」とよばれる状態となり収量、品質は著しく低下する(図6D)。ハダニ類は成虫の大きさが0.5 mm程度ととても小さいため、最初は気づきにくい。高温や乾燥の気象条件で急激に増殖するため、被害につながりやすい。
ハダニ類は、おもに畑の中に生えている雑草で越冬する。春に雑草で増殖したのち、ホップに移動してくるため、下草管理も重要である。下草からホップに移動してくる6月下旬以降は、薬剤による防除のタイミングとなる。ハダニ類は薬剤抵抗性が発達しやすいので、同じ薬剤を使わないようにし、作用機構の異なる薬剤をローテーションしながら使う。

  • 図6. ハダニ類の被害
    A. 黄色のカスリ状に変色した被害葉
    B. 多発時にみられる葉全体の褐変
    C. 黄変、褐変した毬花と張り巡らされたクモの巣状の糸
    D. 「赤花」状態となった毬花

アズキノメイガ

本種は、以前フキノメイガとも呼ばれていた。ふ化した幼虫が蔓(つる)に穴をあけて食入し、被害が激しいと食入部位から先端部まで枯死する。食入孔から虫糞を出すので目に付きやすく(図7A)、収穫時期に近づくと幼虫が毬花にも食入する。発生が多い場合には収量や品質への影響も大きくなる。食入孔付近の蔓を割ってみると幼虫がみつかる(図7B)。
本種は、枯れ蔓の内部で老熟幼虫のまま越冬する。翌春の蛹化には水分が必要なため、成虫の発生時期は地域や年次によって変動がある。防除時期は成虫の発生開始後であり、岩手県の場合、6月下旬~7月上旬以降が防除タイミングとなっている。この虫は広食性のため、周辺にアズキやササゲなど豆類や、カラハナソウ、イタドリなどの雑草がある場合は圃場外からの侵入が多くなる。

  • 図7. アズキノメイガ(フキノメイガ)の被害
    A. 被害蔓の虫糞
    B. 蔓内部の幼虫

その他の病害虫

春に萌芽したばかりの芽がアサトビハムシの食害にあい、萌芽や生育が抑制されることがある(図8)。
新植もしくは改植時に細菌による根頭がんしゅ病が問題となる場合がある。この病害は土壌伝染し、根株や根にコブを作る(図9)。若い株ほど発病時の影響が大きく、衰弱して枯死したり、生産性が低下したりする。
クジャクチョウの若齢幼虫が集団で葉を食害する。その後、中老齢幼虫(図10)になると分散して短期間で葉を食い尽くしてしまうことがある。
収穫前に曇雨天がつづくと、カビ(糸状菌:Cristulariella moricola)による環紋葉枯病が多発し、収量や品質に影響することがある(図11)。

  • 図8. 萌芽したばかりの芽を食害するアサトビハムシ
  • 図9. 根頭がんしゅ病の「がんしゅ」が形成された根株

 

  • 図10. ホップの葉を食害するクジャクチョウの幼虫
  • 図11. 環紋葉枯病の葉の被害
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ISSN 2758-5212 (online)