水管理の難しい田越しかんがい水田での効果的な除草法

大信産業株式会社 土岸 龍馬
大信産業株式会社 田中 敏章*

*責任著者

はじめに

雑草がたくさん繁茂してしまった我が田を見て、肩を落とした生産者は数多くいるだろう。特に水管理が難しい圃場では水稲用除草剤を効果的に使うことが難しい。
中山間地では基盤整備も進んでおらず、棚田・谷津田率が多く、水管理の難しい水田が多い。今回は水田に水路が整備されておらず、田越しに水を入れなければいけない圃場での除草管理事例を紹介する。

圃場の状況と除草剤の剤型を考える

水管理がしやすく、田植え同時処理(田植えと同時に一発処理除草剤を散布すること)を行った後にすぐに入水管理が出来るような圃場において、初中期一発除草剤の1キロ粒剤を用いた田植え同時処理は、田植えを行いながら除草を済ませることができる非常に便利な処理法である。
しかし、本来の除草剤の効果が発揮できずに雑草が繁茂して困った事例もある。ある生産者(大規模経営体)は、上の田から下の田へ田越しに入水せざるを得ないような圃場でも1キロ粒剤の田植え同時処理を行っていた。このような圃場条件だと上の田から下の田に除草剤の成分が流亡してしまい、結果的に下の田では雑草の発生は見られなかったが、上の田で雑草が繁茂してしまった。
このような水管理の難しい田越しかんがい水田では、田植え同時処理を行わないという決断をしてほしい。田植えが済んでから水を入れ、その後に除草剤を散布するようにするだけで除草剤の効果を発揮しやすくなる。上記の生産者では、田越しかんがいが必要な圃場に限り田植え同時処理を止め、水田に投げ入れるタイプのジャンボ剤へ移行した。その結果、1キロ粒剤を使用していた時と比べて雑草の発生を抑えることができた。

水稲用除草剤使用のポイント

ここで改めて水稲用除草剤の効果を発揮するためのポイントを3点挙げる。
ポイント①:整地・代かき・植付けは丁寧に!
田面が均平なほど、薬剤が水中を均等に拡散し、安定した効果を得られやすい。また、植付けを丁寧に行い、浅植えや、浮き苗が生じないようにすると薬害を防止できる。
ポイント②:散布時の水深管理および止水管理を徹底的に!
水稲用除草剤の有効成分は水中も拡散する。そのため、水深管理を怠ると拡散不良を起こす。具体的には出来るだけ深水で水深3~5cm以上を保ち散布することが望ましい。田植え同時処理の場合は、植付けが終わったのち速やかに入水することが大切である。また、水口・水尻や畦畔から圃場外へ水漏れしないよう圃場をひと周りして漏水チェックも抜かりなく行うことが必要である(図1A–D)。
ポイント③:除草剤散布後の水管理が命運を分ける!
除草剤の有効成分は水田土壌の表層に吸着されて除草効果を発揮する。安定した効果を発揮させるためには、この有効成分の層を破壊しないように水管理を行えるかがポイントである。特に除草剤処理後の7日間の水管理が特に重要なため、漏水を防ぎ強制的な落水やかけ流しを行わないようにする(1)。

  • 図1. 止水管理
    A. 止水しきれておらず漏水している水尻
    B. 畦畔板などを使用し畦畔沿いからの漏水を防ぐ
    C. 水尻に土を盛り止水を行っている様子
    D. 畦畔板などを使用し止水を行っている様子
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ISSN 2758-5212 (online)