東京大学大学院農学生命科学研究科
渡邊 健
近年、アライグマ、キョンなどの哺乳類、ナガエツルノゲイトウなどの植物が日本の農作物生産に大きな影響を及ぼしているというニュースを聞いた方も多いと思う。これらの動植物は、元々はペットや動物園展示動物、水草として海外から輸入されたものが野外に放たれ、自然環境下で大発生して問題となっているもので、「特定外来生物」として外来生物法による規制・防除の対象に指定されている。
筆者は、今後、農業生産場面において特定外来生物との「戦い」は避けて通れないと考えている。少しでも特定外来生物を理解するとともに、効果的な防除や被害回避につなげるために外来生物法を知って欲しい。
外来生物法とは
正式名称を「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」という。外来生物の規制および防除に関する日本の法律であり、2005年6月1日に施行された。「外来生物法」や「外来種被害防止法」などと略される。
この法律の目的は、特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資することである(1)。
特定外来生物に指定された生物は、飼育・栽培・保管・運搬することや輸入・譲渡・販売することとともに野外へ放つ・植える・種子を播くことなどが原則禁止され、違反した場合には罰則が科せられる。
農業に影響を及ぼす特定外来生物
指定されている数多くの特定外来生物(2)のうち、特に農林業に被害が大きいと考えられる種を以下にあげる。
1)水路やため池の通水障害や水田や畦に蔓延ることにより被害を及ぼすもの
動物(貝類)ではカワヒバリガイ、植物ではオオフサモ、ブラジルチドメグサ、オオバナミズキンバイ、ナガエツルノゲイトウ、ミズヒマワリ、外来アカウキクサ類(アゾラ)、ボタンウキクサなどがある。
2)各種農作物や林業樹木に直接被害を及ぼすもの
ヌートリア、クリハラリス(タイワンリス)、アライグマ(図1)、フイリマングース、キョンなどの動物(哺乳類)がある。
3)森林、街路樹や公園樹木、果樹などに被害を及ぼすもの
ツヤハダゴマダラカミキリ、サビイロクワカミキリ、クビアカツヤカミキリなどの昆虫がある。
カタカナの名前だけではイメージが湧きづらい特定外来生物も多いと思われるので、写真や分布を環境省のホームページ(2)などからぜひ確認してみていただきたい。情報は環境省以外にも、農林水産省、国土交通省をはじめ、各都道府県や市町村のホームページにも掲載されている。