栢森 美如*
はじめに
このオンラインジャーナルは、個人の農業者、農業法人の従業員、普及指導員、農協の営農指導員などの読者を対象としている。生産現場で農業に従事している読者は、植物の病気や生育異常が発生した場合、公的機関や植物医師に診断を依頼することがあるだろう。筆者は植物病の診断依頼を多く受けるが、その中には「不明」で終わるものも少なくない。診断が「不明」となる理由は、診断サンプルの状態が悪い、サンプル数が少ない、耕種概要などの情報が不足している等が主な原因である。
高価な作物の場合、初期症状の段階で株ごと抜いて診断サンプルとして提供することに抵抗を感じることもある。また、診断サンプルを持参したり、郵送したりする手間もかかるため診断依頼が遅れることもある。
一方、スマホやパソコンによる病徴写真だけでリモート診断(遠隔診断)を依頼されることもあるが、筆者はごく簡単な病害を除いて断っている。その理由は、送られてくる画像がぼやけていたり、顕微鏡観察や培養が必要だったりとする場合がほとんどだからだ。顕微鏡写真があれば、リモート診断でも迅速かつ正確な診断が可能になる。もし、圃場に顕微鏡を持っていくことができれば、作物を抜き取る必要もなくなる。
これまで携帯できる顕微鏡の代わりになるものとして、接写できるオリンパス社のTG4(後継機種TG6)で実体顕微鏡レベルの拡大率(約50倍程度)が利用されてきたが、数万円もするため、農業者が診断依頼のためだけに気楽に購入することはできない。また、精子観察キット(TENGA)が2000円程度で購入でき、スマホレンズに装着して500倍の顕微鏡写真を撮影することができるが(1)、かびによる病気の場合には100~200倍の倍率で観察することが多く、500倍ではむしろ実用的に不向きである。また、野外では操作性が悪く、熟練した技術が必要となる。
百均のスマホレンズによる顕微鏡写真撮影
DAISOから110円で販売されているスマートフォンレンズセット(Smartphone lens set)には、魚眼レンズ、マクロレンズ、広角レンズの3種のレンズがセットになっている。その中で、マクロレンズを顕微鏡代わりに使うことができる。これはスマホグッズコーナーに置かれている(図1)。
マクロレンズをスマホのレンズに被せるように装着し、カメラアプリを起動する。レンズから被写体までの距離は1~2cmである(図2)。安いスマホの場合、接写写真を撮るとピントがぼやけることがあるが、マクロレンズを使用することで焦点の合った写真を撮影することができる(図3)。また、スマホの画面でズーム拡大することで倍率を上げることもできる。こうすることで、実体顕微鏡並(約50倍)に匹敵する撮影が可能である。
ワンランク上の診断依頼へ
診断依頼の際、「原因は分からなくてもいいから、病気が広がる可能性があるのか、生理的な障害で様子見することができるのかだけでも早めに知りたい」という要望がある。もし原因が病害虫によるものであれば、適切な対策を急いで実施する必要がある。顕微鏡写真を添えて公的機関や植物医師に診断を依頼すると、原因が微生物なのか他の要因なのかが判断でき、次に行うべき調査方法や防除対策についてアドバイスを受けることができる。これまで「原因不明」とされてきた診断依頼も、早期に相談を始めることで原因の解明につながることを期待している。
(*北海道立総合研究機構 上川農業試験場)