生咲 巖
はじめに
ビワキジラミ(1,2)はアブラムシやコナジラミなどに近い仲間(カメムシ目)で、成虫(図1A)はセミのような外観をしているが、体長は約3ミリと小さい。幼虫(図1B)は扁平で自由に歩行でき、通常は枝葉の基部や花蕾のすき間などに潜んでいる。この害虫は、2012年に徳島県で初めて発見されたが(3)、2023年5月には四国全域(3,4,5,6)や、近畿・中国地区の一部(7,8,9,10,11)にまで広がっている。
ビワキジラミによる被害と生態
成虫・幼虫ともに樹液を吸汁し、これを体内で濃縮して「甘露」(図2A)として排泄する。これが枝葉や果実に付着すると、すす病(図2B)が発生して黒く汚損されるのが被害の特徴である。
ビワキジラミが寄生できる植物はビワだけで、年に5回程度世代を繰り返すとみられ、ビワ樹に年間を通して寄生する(1)。時期によって生息部位が変わり、夏場(7月~9月)は成虫は産卵することなく樹の内部の葉裏に潜んで休眠状態をとり(図2C)、幼虫はほとんど見られない。8月下旬頃から産卵が始まり9月下旬頃より幼虫が花蕾部を中心に寄生する。10月下旬頃から新成虫が花蕾部を中心に寄生し、冬(12月~2月)は冬眠することなく様々な生育ステージ(幼虫、成虫)で花蕾や幼果等の植物体の隙間に潜んでいる。春は新梢先端部を中心に寄生し、幼・成虫ともに爆発的に増加する。
民家の庭先などに植えられたビワや、雑木林などで野生化したビワで増殖しながら、1年に約10km程度の速度で分布を広げる(1)。また、露天市やネット販売の苗木に付着して拡散した例もあり、発生地から遠く離れていても警戒が必要である。
防除について
栽培ビワでは春に果実の袋かけが行われるが、ビワキジラミはその時点ですでに花房や幼果のすき間に寄生している。このため、袋かけだけで被害を防ぐことはできない。
また、ビワキジラミの天敵(1)として、キモンクロハナカメムシなどの捕食性カメムシ類やクモ類などがおり、これらがビワキジラミの増加を抑制している可能性はあるが、天敵だけで栽培園の果実被害を防ぐことはできない。ビワキジラミが確認された場合は、薬剤による防除が必須である。
この虫に対する薬剤防除(1,12)は、香川県では開花初期(11月中下旬)と袋かけ前(3月下旬頃)の防除を基本とし、収穫終了後(6月下旬~7月)と10月中下旬を応急的な防除時期としている(12)。
薬剤散布における注意点
・全期間
(1)薬剤の散布量が少ないと十分防除できないことがある(図3)(12)。散布量の目安として、高さ3m以上、樹幹部の直径4~5m程度の成木では20~30L、高さ約2m、樹幹部2~2.5m程度の若木では3~5L散布する。10a当たりの散布量の目安は300~500Lである。
(2)ビワは葉や果実表面にたくさん毛が生えているので薬液をはじきやすいため、展着剤を加えると薬効があがる。とくにシリコーン系の展着剤や、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル系、ソルビタン脂肪酸エステル系の機能性展着剤は隙間に潜む幼虫に薬液が浸透しやすくなるため、幼虫がほとんど見られない夏場以外の薬剤散布時には使用した方がよい(1)。
・袋掛け前
(1)袋掛け前は果実を中心に散布する。とくに、仕上げ摘果を行い、余分な花カスを取り除いた後に散布すると薬液が果実にしっかりとかかり防除効果が高くなる(図4A,B)。
(2)ジノテフラン水溶剤、ジノテフラン液剤 は散布後約1ヶ月で薬効が低下するので、散布後、薬液が乾いたら速やかに袋掛けする。
・開花期〜幼果期
(1)開花期〜幼果期は、樹冠内部のビワキジラミの数は減り、幼虫が花房(果房)付近に集中するので、花房(果房)や生長点付近に集中的に散布する。高い場所まで散布できるピストル噴口が効果的である(1)。
(2)開花期には花蕾が固く締まっているため、散布した薬液が花房の奥まで浸透しにくい。このため、隙間に潜む幼虫に薬液が十分かからないおそれがあるので、花房がある程度伸長し、花や蕾の間に隙間ができてから(図4C,D)散布するのがよい。
・ジノテフラン水溶剤、ジノテフラン液剤は夏~秋に散布するとリサージェンス(農薬散布により害虫とともに天敵も減ってしまい、農薬の薬効が切れたあと、目的とする害虫が再び増えてしまう現象)を起こすので、散布時期に注意する。
引用文献
- 農研機構(2020)「ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル(2020年11月改訂)」
- Inoue, H., Nakanishi, T. and Kaneda, T.(2014)Cacopsylla biwa sp. nov. (Hemiptera: Psyllidae): a new pest of loquat Eriobotrya japonica (Rosaceae) in Japan. Applied Entomology and Zoology, 49: 11‒18.
- 徳島県病害虫防除所(2012)「平成24年度農作物病害虫発生予察特殊報第1号」
- 香川県農業試験場病害虫防除所(2016)「平成28年度病害虫発生予察特殊報第2号」
- 愛媛県病害虫防除所(2021)「令和2年度病害虫発生予察特殊報第2号」
- 高知県病害虫防除所(2023)「令和5年度病害虫発生予察特殊報第1号」
- 兵庫県病害虫防除所(2017)「平成29年度病害虫発生予察特殊報第1号」
- 和歌山県農作物病害虫防除所(2018)「平成 30 年度病害虫発生予察特殊報第2号」
- 岡山県病害虫防除所(2020)「令和2年度病害虫発生予察特殊報第1号」
- 大阪府境農林水産部農政室推進課病害虫防除グループ(2021)「令和3年度病害虫発生予察特殊報第2号」
- 京都府病害虫防除所(2022)「令和4年度病害虫発生予察特殊報第1号」
- 生咲巖・渡邉丈夫(2020)「ビワキジラミの防除体系技術の開発」. 植物防疫 74:510‒513.