佐藤 政宏
はじめに
ゴルフ人気は相変わらず高く、海外のメジャートーナメントでも日本人の選手が活躍している。ゴルフ場のグリーンにはベントグラスが主に使用され、絨毯の様なグリーンを作り上げるには相当な技術が必要である。ベントグラスを例に、立派なグリーンを作り上げるまでの生育管理と、シバの健康を損なわせる植物病について例を挙げながら紹介したい。
グリーン基盤のつくりかた
グリーンは短く刈り込まれたシバを常に美しくかつ健康に維持しなければならない。そのため、土壌の下には砂や砂利を敷き詰め、排水性を高めるとともに、さらにその下には排水管を備えた基盤が必要となる(図1)。
グリーンは、芝を貼ってつくることもできるが、そのためには別の場所で同じ面積の栽培地が必要であり、切り出しや移送の工程が増えてコストが高くなるため、通常、基盤の上に直接播種する。
シバの播種
グリーンに最も多く用いられるシバはクリーピング・ベントグラス(以下 ベントグラス)である。これはパッティングクオリティを満たす(ゴルフボールが最もスムーズに転がる)草種だからである。このシバには、数多くの品種が育種され流通している。生育の旺盛さや再生力、葉の密度や葉色の濃淡、刈り込みに耐える力、暑さや植物病に対する耐性など、評価すべき特性が多岐にわたるため、日本では、種苗会社がさまざまな品種を輸入・販売している。経営者や芝生管理者がグリーンに何を求めるかにより、使用される品種が異なってくる。
種子は小さく、1グラムで約12,000粒あり、専用の播種機で1平方メートルあたり5~10g 播種する(図2A–C)。種子の乾燥や飛散を防ぐため、不織布シート等で被覆して育成する(図2D)。播種時期は春播き(4月中旬~下旬)と秋播き(8月下旬~9月中旬)がある。
播種後の管理
品種により差があるが、一週間前後で発芽が揃う(図3)。一回目の刈込みは発芽から約1週間後で、シバ刈機で地際から刈込高10~12ミリに設定しておこなう(図4A)。生育状況を見ながら発芽1ヶ月後(図3B,D)から、約1週間おきに0.5~1ミリ単位で刈込高を低くしてゆく(図4B)。盆栽のように、幼苗時からストレスに順応させて草丈の低い状態を維持する。生育が順調に進めば、播種から約3~4ヶ月(図3C,E)で、営業利用される平均的な刈込高である4ミリ前後にする。
播種床となるグリーンの土壌には土壌改良材を混合しているが、大半が砂である。したがって、発芽から活着するまでは湿潤状態を保つ必要があり、一日に数回散水をおこなう。
「ピシウム病」とその対処法
発芽したばかりのベントグラスの幼苗は脆弱であるうえに、土壌を湿潤状態に保つ必要があるため、微生物病が発生しやすい。特に問題となるのはピシウム病(赤焼病以外のピシウム菌(Pythium sp.)による病害の総称)による苗立枯症状で、生育初期に発生すると被害は甚大となる。発病初期には手のひらサイズくらいの不整形から円形に近いパッチ(斑点)ができ、発病後期には株が枯れ、複数のパッチが癒合して直径数メートルの大型のパッチになる(図5)。
このため、発芽直後に殺菌剤を使用し、防除することが大切である。その後も初期管理のあいだ(播種から2~3ヶ月)は、ピシウム菌を標的にしたホセチル水和剤(FRAC:P7)、アメトクトラジン水和剤(FRAC:41)などの殺菌剤(1,2)を施用する必要がある。
シバの表面を平滑にする必要上、刈込や転圧を頻繁に行うため、作業過程で芝刈機にいったん菌が付着すれば、グリーン全体にピシウム病を拡げてしまう。そのため、殺菌剤を散布する必要がある。今のところ、化学農薬以外には、耕種的防除等の有効な防除手段はない。
ピシウム菌が分類される卵菌類は、たとえば生物8界説では一般的なカビが属する「菌界」とは異なる「クロミスタ界」として分類され(3,4)、その性質は大きく異なる。そこで、卵菌類に効果のある殺菌剤を利用して防除する必要がある。シアゾファミド水和剤(FRAC:21)やアミスルブロム水和剤(FRAC:21)は、散布薬量が少なくて済む新規薬剤であるので、比較的多用される。しかし、耐性菌の出現リスクを抑える必要があり、ヒドロキシイソキサゾール液剤(FRAC:32)やプロパモカルブ塩酸塩液剤(FRAC:28)などの従来品と輪番散布することが望ましい。薬剤の選択や組合せに迷う場合は植物医師®にご相談いただきたい。