井手 洋一
はじめに
チュウゴクナシキジラミ(Cacopsylla jukyungi)は、ニホンナシやチュウゴクナシの重要害虫の一つで、日本のほか中国や韓国で発生している。成虫や幼虫が吸汁した葉は褐変し早期落葉する。また、幼虫が排泄する大量の甘露(かんろ、粘り気のある液体)を栄養源にしてすす病が発生すると、果実表面が黒く汚れるため、商品価値が下がる。なお、以前は近縁種のCacopsylla chinensis(中国や台湾で発生している害虫で日本未発生。ファイトプラズマ病(台灣梨衰弱病、Pear Decline in Taiwan)を媒介する(1))と混同されていたが、別種である(2)。本稿では、チュウゴクナシキジラミを早期発見するコツについて紹介する。
甘露による早期発見とは
チュウゴクナシキジラミの幼虫は5齢(終齢)でも体長2ミリ程度で肉眼では発見しにくい。成虫(体長約3ミリ)は頻繁に跳び回るため、かなり繁殖すれば気づくこともあるが、夏になると体色が葉の色と同じ緑色になり(図A)、冬は樹皮と同じ黒褐色(図B)に変化するので、なおさら肉眼での発見は難しい。
しかし、幼虫が排出する甘露は(図C、図D)、晴天時に摘果や枝の管理作業を行っていると、雨や夜露でぬれていないのに、光を反射してキラキラ光るため見つけやすく、チュウゴクナシキジラミの目印になる。甘露は葉表、葉裏(図C、図D)、葉へいの付け根など(図E)にみられ、早期発見のポイントとなる。
防除における留意事項
この害虫に対して、ネオニコチノイド系剤(クロチアニジン、ニテンピラム、イミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド)と、スピネトラム、トルフェンピラドが効くことが確認された(1,7)。その後、ピリダベン、ピリフルキナゾンも登録されている。しかし、近年、ネオニコチノイド系薬剤(8,9,10)やトルフェンピラド(9,10)、ピリフルキナゾン(7)が効きにくくなっている。
若中齢幼虫(幼虫を若齢・中齢・老齢と分ける)が増える4月下旬~5月上旬および6月下旬~7月上旬が防除適期なので、この時期に有効薬剤を散布していただきたい。また、甘露の発生がみられた際や、成虫・幼虫の発生を肉眼で確認した際にも、適時防除を行っていただきたい。一方で、今後、このムシに対する有効な薬剤の登場を心より期待している。
また、高性能粘着トラップは、設置のしやすさや、誘引・捕捉効率において優れている(7)。甘露による早期発見と合わせて、防除のためのツールに活用していただきたい。
なお、このムシの詳しい形態や被害写真は、他書(3,4,5,6)を参考にしてほしい。
引用文献
- 井手洋一・口木文孝(2012)「チュウゴクナシキジラミに対する各種殺虫剤の評価」 九病虫研会報 58:83‒87.
- 藤家 梓(2020)「ナシ チュウゴクナシキジラミ」 ひと目でわかる果樹の病害虫 第二巻(改訂第二版) p.77.
- 井上広光・口木文孝・井手洋一・三島重治(2012) 「日本での発生が初めて確認されたチュウゴクナシキジラミ Cacopsylla chinensis(Yang & Li)」応動昆 56:111‒113.
- 井上広光(2012a) 「日本での発生が初めて確認されたチュウゴクナシキジラミ」農研機構 果樹研究所 成果情報
- 井上広光(2012b) 「チュウゴクナシキジラミの特徴と国内での発生について」植物防疫 66:494-498.
- 口木文孝(2012) 「佐賀県におけるチュウゴクナシキジラミの発生と防除対策」植物防疫 66:590-595.
- 出穂美和・岩本哲弥・殿河内寿子・本田善之(2016) 「新規侵入害虫チュウゴクナシキジラミの防除技術の確立」 山口農林総技セ研報 7:18-23.
- 衞藤友紀・池田亜紀・近藤知弥(2020) 「各種殺虫剤に対して感受性が低いチュウゴクナシキジラミが発生している」 令和2年度佐賀県研究成果情報
- 岩本哲弥(2019) 「薬剤感受性が低下したチュウゴクナシキジラミの対策について」 農林害虫防除研究会沖縄大会講演要旨
- 岩本哲弥(2020) 「チュウゴクナシキジラミの薬剤感受性の低下と対策について」 九病虫研会報 66:84(講要).