米本 謙悟
はじめに
砂地畑栽培のサツマイモでは、土壌病害の一つである「立枯病(たちがれびょう)」(1)の防除対策として、クロルピクリンくん蒸剤による「マルチ畦内処理」が行われ、その機械化も確立している。しかし、宅地化の進行に伴い、ガス化したクロルピクリンの環境に与える影響が不安視されている。これは、処理時期が3月中〜下旬に集中したり、地温が上昇する4月以降になることが関係している。つまり、被覆したポリエチレンフィルム表面をクロルピクリンが透過して放出されるのである。ほかの代替薬剤も検討されたが、クロルピクリンくん蒸剤をしのぐ薬剤は開発されていない(2)。そこで、ガス化したクロルピクリンが漏れるのを極力防ぐため、ガスバリアー性フィルムが開発された。
サツマイモ立枯病について
サツマイモ立枯病はバクテリアの一種(Streptomyces ipomoeae)によって起こる植物病で、感染したサツマイモは、葉が黄化あるいは紫褐色化し、株が著しい生育不良となり、ひどい場合には枯死する。地下茎や塊根(イモ)には黒色円形の陥没した病斑を生じ、商品価値を著しく損なう。本病は土壌pH(KCl5.6以上)や土壌の高温乾燥により、発病が助長される(3)。サツマイモの品種により本病に対する抵抗性が異なるが、完全な抵抗性を持った品種はない(図1)。
ガスバリアー性フィルムの利用
ガスバリアー性フィルムは、食品等の品質低下を招く湿気や酸素などを遮断するフィルムで、スナック菓子などの包装に使われている。圃場で利用するために、0.02㎜厚の黒色フィルムが開発され、ガス遮断性以外は、これまでのマルチ用フィルムとほとんど違いがわからない品質となっている(図2)(4)。
本フィルムは、従来のポリエチレンフィルムと異なり、フィルム表面からのガス透過を約1/4,000倍まで抑える(5)。従って、土壌中のガス濃度はポリエチレンフィルムに比べ最大約40倍保持される。このため、クロルピクリンくん蒸剤の処理間隔は、これまでの3mL/穴、30㎝間隔の処理よりも間隔を広げることができるので、クロルピクリンくん蒸剤の処理量も削減できる (図3) (6,7)。また、クロルピクリンによる作業者への暴露も軽減される。
ガスバリアー性フィルム使用時の注意点
ほ場周辺に宅地が密集しているところでは、周辺環境への配慮からガスバリアー性フィルムを積極的に使用するとよい。
ガスの遮蔽効果が高いため、ほ場によってはガス化したクロルピクリンが土壌中に残りやすくなるので、約3週間を目安にガスが抜けきるのを待つか、作付け前にアブラナ科野菜等の種子を播いてみて、発芽を確認し、ガス抜きの効果を確かめるとよい(8)。
黒ボク土や灰色低地土の場合は砂地畑とは異なるため、初めて使用するときには、都道府県病害虫防除所や植物医師®に相談するとよい。
引用文献
- 渡邊健(2023)「サツマイモ病害虫の発生動向」 i Plant 1 (1).
- 金磯泰雄(2009)「砂地畑におけるサツマイモ立枯病に対する薬剤あるいは資材による発生抑制と防除の現状」 植物防疫 63(7):455-459.
- 鈴井孝仁 (1987) 「サツマイモ立枯病とその病原菌」 植物防疫 41(7):307-311.
- 岩谷マテリアル株式会社「土壌消毒用難透過性フィルム ハイバリアー」
- 小原裕三ら (2016)「日本型農業環境条件における土壌くん蒸剤のリスク削減と管理技術の開発」
- 米本謙悟・田中昭人・三宅 圭・村井恒治・小原裕三 (2014) 「ガスバリアー性フィルムを利用したクロルピクリン剤畦内拡散とサツマイモ立枯病に対する防除効果」日植病報 80(4):290.(講要)
- 米本謙悟・田中昭人・三宅 圭・村井恒治・小原裕三 (2015) 「ガスバリアー性フィルムを用いたサツマイモ立枯病に対するクロルピクリン処理間隔の限界と防除効果」日植病報 81(3):258.(講要)
- クロルピクリン工業会「クロルピクリン剤の処理方法」