青木 由美
はじめに
ダイズ畑でみられる葉巻は、「ウコンノメイガ」というガの幼虫の仕業である。この害虫は全国的に発生しているが、北陸・東北地方で特に多い(1,2)。発生量は畑や年によって差があり、防除が遅れると被害が大きくなることから、予防目的で薬剤散布が過剰に行われることがある。そのため、近年は葉巻数を指標とした適正な薬剤の目安が設定されている。
発生生態
ウコンノメイガは年2世代発生する。世代によってエサとなる植物が替わる。夏場(第1世代)はダイズを、秋〜春(越冬世代)は山沿いに自生する野草(イラクサ科のアカソやカラムシ)をエサにする(図1)。北陸地方では、7月上旬頃に成虫がアカソ等の自生地からダイズ畑へ飛来し、産卵する。ふ化した幼虫はダイズの葉巻の中で成長してサナギとなり、その後8月中下旬までに成虫となる。しかし、ダイズには産卵せず、再びアカソ等の自生地へ移動して産卵し、幼虫で越冬する(1,3)(図2)。なお、幼虫は光沢のある淡緑色で、2センチ程の大きさになるが、成虫は翅(はね)を広げた大きさが約3センチの淡黄褐色のガで、日中は葉裏に潜み、主に夜間に活動する。
被害
ダイズ畑では7月中旬から葉巻がみられ(図3)、生育が旺盛で葉色が濃い畑や播種時期が早い畑、アカソやカラムシが自生している山沿いの畑で多く発生する。「里のほほえみ」など生育が旺盛な品種でも葉巻被害が多くなりやすい(4)。また、7月中下旬に降水量が多い年は、被害が大きくなる。幼虫の小さいうちは葉の縁を折り曲げ、成長すると葉をロール状に巻き込んだり、複数の葉をつづったりし、中で葉を食害する。ある程度食害すると移動して新しい葉巻を作る。幼虫期間が終了する8月中下旬に最も葉巻数が多くなる。子実は加害しないため、収量に及ぼす影響は小さいが、被害が著しいと、子実が小粒化するため減収につながる(5)。
防除の目安
被害に気付く8月中下旬以降は、老齢期の幼虫やサナギが主体となるため、防除の適期が過ぎており、効果が期待できない。幼虫の発生量は畑によって差が大きいので、発生リスクの高い早播き畑や生育の旺盛な畑を中心に巡回し、簡便に調査できる「葉巻数」を幼虫の発生量の指標にする。葉巻数が増加し始める7月下旬に葉巻数を調べ、各県が設定している「防除の目安」に従い防除要否を判断する(6)。富山県の目安では、7月第6半旬(26〜末日)の1本当たりの平均葉巻数が6個以上の場合、防除が必要となる。この時期の葉巻は小さいので、見逃さないように注意する。また、わずかに巻かれた葉も数える。幼虫の発生量は畑ごとの成虫の飛来数によって決まる(7)。したがって、フェロモンを利用して成虫の捕獲数を調べれば、早期に幼虫の発生量や被害量を予測できるので、簡便な防除基準の実用化に向けた研究が進められている(8)。
防除法
極端な早播きや多肥栽培を避け、成虫の飛来数を減らすことが大切である。大規模な経営体では、播種時期や畑の条件によって生育量が異なるため、幼虫の発生量にもムラが生じる。このため、減農薬の観点から、薬剤防除は防除暦一辺倒に陥らないことが重要である。7月末に畑単位、あるいは播種時期別のブロックごとに発生状況を確認し、「防除の目安」に従って行う。また、幼虫の齢期が進むほど薬剤に対する感受性が低下するので、防除は、幼虫が若・中齢期にとどまっている8月初めまでに遅れずに実施する(1)。現在、系統の異なる複数の薬剤が登録されているが、特にクロラントラニリプロール水和剤などジアミド系殺虫剤の防除効果が高く、残効も長い(4)。なお、畑全面に著しい被害がみられ、小粒化の程度が大きい場合は、他の畑と区別して収穫し、乾燥・調製も別に行うことで、全体の品質低下を防ぐことができる。
引用文献
- 成瀬博行・新田朗(1985)「ダイズ害虫ウコンノメイガ Pleuroptya ruralis(Scopoli)の生態と防除に関する研究Ⅰ.ダイズ圃場における発生経過」 富山県農試研報 16:27-33.
- 横田啓(2011)「岩手県中部のアカソ群落とダイズ圃場におけるウコンノメイガの発生消長」 北日本病虫研報 62:134-139.
- 青木由美(2008)「ダイズにおけるウコンノメイガの発生実態と防除対策」 植物防疫 62:453-456.
- 石本万寿広・岩田大介(2018)「新潟県のダイズにおけるウコンノメイガの発生消長と薬剤防除法」 植物防疫 72:501-505.
- 樋口博也(2005)「ウコンノメイガによる葉の食害がダイズの生育と収量に及ぼす影響」 応動昆 49:259-261.
- 一般社団法人日本植物防疫協会ホームページ「都道府県が設定している要防除水準(野菜)」
- 成瀬博行・新田朗(1985)「ダイズ害虫ウコンノメイガ Pleuroptya ruralis(Scopoli)の生態と防除に関する研究Ⅳ.夏世代個体群の動態」 富山県農技セ報告 19:31-40.
- 渋谷和樹・竹内博昭(2020)「植物防疫講座 虫害編(26)ダイズのチョウ目害虫(ウコンノメイガ,マメシンクイガ)の発生生態と防除」 植物防疫 74(6):356-360.