かんきつ類(温州ミカン、中晩生かんきつなど)の主要病害

JA静岡経済連
市川 健

はじめに

かんきつ類はミカン科に属する常緑果樹で、日本で生産されるくだもの類の中でも大きな割合を占める(1)。かんきつの中でも温州ミカンの生産量は約7割を占め、その他は中晩生かんきつと呼ばれる。くだものの消費に加え、香酸かんきつ類として料理や薬味にも使用される。温暖な地域に分布し、関東南部以西が産地である。
かんきつではリンゴやナシなどに比べて、収穫前に果実を腐敗させたり侵入して落果させるような直接的に収量を下げる病害虫は少ない。病虫害による主な被害は、病斑や加害痕が果実の外観を損ない商品価値を下げる、いわゆるコスメティックペストが大半で、その防除が重要となっている。ここでは、その主な病害(1)について紹介する。

黒点(こくてん)病

カビ(糸状菌:Diaporthe citri )による病害。果実や葉の表面に、1ミリ以下の小さな黒点状の病斑を生ずる(図1A)(1,2)。病斑はそれ以上大きくはならないが、商品価値が低下する。ひどくなると、落葉したり、果実の病斑が融合して大きくなり激しい症状となる(図1C,D)。また、病斑に潜んでいた病原菌が貯蔵中に増殖すると、腐敗症状を伴う軸腐(じくぐされ)病を発症させる。
病原菌は樹冠内の枯れ枝に潜み(図1B)、降雨時に大量の胞子が放出・飛散し、若い葉や果実に付着して発病し、黒点状の病斑をつくる。5~10月の感染が拡大する時期にジチオカーバメート剤、銅水和剤などの農薬の散布により果実表面の感染を防ぐことができる。
枯れ枝で病原菌の繁殖を防ぐ薬剤はない。枯れ枝の除去が効果的な防除法であるが、収穫や摘果によって生じたわずかな枯れこみも感染源となるので、効果は限られている。樹勢を良好に保ち、大きな枯れ枝は剪定時に除去して枯れ枝の発生を防ぐ。

  • 図1. 黒点病の症状
    A. 一般的症状(1ミリ以下の小さな黒点状の病斑)
    B. 枯れ枝からあふれ出た分生子角(胞子の塊)
      枯れ枝を湿度を保って保持すると観察できる。
    C. 激しい症状(泥塊状病斑)
    D. 激しい症状(涙斑状病斑)

かいよう病

バクテリア(細菌:Xanthomonas citri subsp. citri )による病害。葉、枝、果実に発生し、コルク化した直径数ミリの円形の病斑ができる(図2A,B)(1,2)。感染が進む時期には、病斑の周囲が水浸状となり、その外側にハロー(黄色いリング)ができる。ひどくなると落葉・落果するが、果実に病斑ができるだけでも商品価値は下がる。品種により抵抗性の差が大きい。スイートオレンジ、レモン、ナツダイダイは抵抗性が弱く、薬剤による防除が必要である。温州ミカンは中程度で、ふつうは防除する必要はない。ポンカン、ユズ、ヒュウガナツは抵抗性である。
病原菌は降雨時の病斑から飛散し、風雨によって生じた傷口から感染し、発病する(図2C)。防除対策としては、銅水和剤や抗生物質剤などの薬剤散布にくわえ、防風垣や防風ネットの設置、冬期剪定時に病斑が形成された枝の除去とともに、加害痕が本菌の侵入部位(図2D)となるミカンハモグリガの防除を行う。また、品種によっては徒長枝に長大なとげを生じ、これが自らの葉を傷つけて侵入部位となることから(図2E)、長枝の除去や徒長枝が発生しないよう剪定を行う。なお、ほ場内で風当たりの強い場所では、抵抗性の弱い品種の植え付けは避ける。

  • 図2. かいよう病の症状
    A. ハローを伴うコルク化した病斑(葉)
    B. ハローを伴うコルク化した病斑(果実)
    C. 風雨により生じた病斑(葉柄部分の病斑▼は風でよじれた傷口より感染したもの)
    D. ミカンハモグリガの加害痕より生じた病斑
    E. とげによりできた傷口より生じた病斑
      (A,B:川野夏ダイダイ、C–E:レモン)

そうか病

カビ(糸状菌:Elsinoë fawcettii )による病害。若い葉や果実は本菌に感染しやすく、感染すると病斑部が盛り上がる(いぼ型病斑)(図3A,B)(1,2)。成熟した組織では、病斑が盛り上がることはなく、表面がコルク化したかさぶた状(そうか型病斑)となる(図3C)。温州ミカンは特にかかりやすい。通常、薬剤防除は行わないが、常発地ではDMI剤、ジチアノン剤などの農薬により防除する。
降雨後の水滴が病斑に残ると胞子を放出して飛散し、感染する。そのため日当たりや風通しが悪く、降雨後に水滴が長時間残るような果樹園で発生が多い。このような果樹園では密植を避け、剪定をおこない通風をよくする。

  • 図3. そうか病の症状
    A. 葉に形成されたいぼ型病斑
    B. 幼果に形成されたいぼ型病斑(ます目は1cm)
    C. 果実に形成されたそうか型病斑
      (A–C:温州ミカン)

灰色かび病

カビ(糸状菌:Botrytis cinerea )による病害。開花末期の老化した花弁に発生し、灰色の菌糸や胞子を密生する(図4A)(1,2)。灰色かび病の発生した花弁が幼果に接していると幼果表面にかさぶた状の病斑ができ、これが傷となって残り、果実の商品価値が下がる(図4C–E)。花弁が新葉の上に落ちると、そこからも発病して葉に暗褐色同心円状の病斑ができる(図4B)。収穫後の果実では、貯蔵中に果実が灰色の菌糸に覆われ腐敗する。
着花が多すぎると花弁で発病することが多くなるので、着花・着果・肥培管理などにより隔年結果を防ぐ。また、剪定により樹冠内の通風を良くする。施設栽培や開花後曇雨天が続く場合には、開花中期以降に枝を揺らして花弁の脱落を促す。

  • 図4. 灰色かび病の症状
    A. 開花期末期の花弁に発生した症状
    B. 新葉に発生した病斑
    C–E. 幼果表面のかさぶた状病斑の経時的変化
      C:6月29日 D:8月8日 E:11月11日(収穫時)

貯蔵病害

かんきつ類では、品質向上(着色の促進、酸度の低減)、出荷調整などのために貯蔵されることが多い。収穫直前の樹上や、貯蔵中に発生する腐敗を貯蔵病害という。数種類のカビにより生じるもので、青かび病、緑かび病、軸腐病、黒腐病、灰色かび病などがある(図5)(1,2)。収穫前に樹上で感染し、貯蔵中や流通時に果実の老化が進むと発生する。収穫前のイミノクタジンアルベシル酸塩剤やベノミル剤などを散布する。このほか、収穫果実を丁寧に取り扱い、貯蔵中は腐敗果実を見つけしだい除去する。

  • 図5. 貯蔵病害
    A. 樹上(収穫前)で発生した緑かび病
    B. 緑かび病の腐敗果
    C. 貯蔵庫内で発生した青かび病の腐敗果
    D. 黒腐病の腐敗果
    E. 軸腐病の腐敗果(黒点病と同一菌)
    F. 貯蔵庫内で発生した灰色かび病の腐敗果

その他の病害

突発的に多発する病害として、カビ(糸状菌:Phytophthora citrophthora など)による褐色腐敗病がある(1,2)。収穫直前の果実に強風雨により傷がつき、土中に潜んでいたこの病原菌がそこから感染して発病する。そのため、園内の排水対策やマルチ栽培などが有効である。薬剤防除の場合にはシアゾファミド剤やアミスルブロム剤などを予防的に散布する。
南西諸島では細菌によるグリーニング病が発生しており、ミカンキジラミにより媒介される。温暖化の進展とともにキジラミ類の生息域が北上しており、今後かんきつ類の産地でも警戒を要する(1)。

引用文献

  1. 家城洋之(2006)「原色/カンキツ病害の診断と防除」 化学工業日報社 90pp.
  2. 静岡県経済農業協同組合連合会編(2022)「2022年版柑橘病害虫防除暦と指導要領」 90pp.
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ISSN 2758-5212 (online)