小倉 愉利子
はじめに
ヤマノイモ類のなかでも、いちょう形やばち形のものはイチョウイモと呼ばれ、ナガイモよりも粘りが強い。主産地の関東地域ではこのイチョウイモのことをヤマトイモと呼んでいる(図1A)(1)。ナガイモは数年連作できるが、ヤマトイモはネコブセンチュウ(図1B)に弱く、かつては連作が難しい作物とされていた。しかし、土壌くん蒸剤による土壌消毒が可能となり連作できるようになった(1,2,3,4)。ただ、環境に配慮した農業生産の観点から、ネコブセンチュウの防除技術はさらなる向上が求められている。
ネコブセンチュウの被害
ネコブセンチュウに加害されると、いもにコブや岐根(きこん:根が複数の股に分かれる奇形症状)が生じるほか(図2)、貯蔵中に腐敗しやくなる。このような被害いもを種いもにすると、翌年の発生源となる(4)。ネコブセンチュウに強いヤマトイモ品種はいまだなく、被害いもは商品価値が低下し販売できないため、徹底した防除が必要である。作付け前に土壌を診断し、ネコブセンチュウの防除要否を判断する必要があるが、技術的に困難なのが実情である。
環境に配慮した防除法
ネコブセンチュウ防除を主目的にクロルピクリンくん蒸剤、 D-D剤など、ガス化して殺虫する土壌消毒法が作付け前に行われている。この際、農業用ポリエチレンフイルムではなくガス難透過性フィルムで被覆すると、土壌消毒剤の成分が大気中に揮散しにくくなり、周辺環境への負荷が軽減される(図3A)(5)。これらの被覆フィルムは、バリアースターVやハイバリア―という名称で商品化されており、それぞれ厚さや価格が異なる。しかし、これらのフィルムは高価で、利用機会が住宅の近くなどに限られていることから、安価な商品の開発が望まれる。また、ガス成分がより長く土壌中にとどまるため、十分な被覆期間がとれるように余裕を持って計画的に作業を行う必要がある。
土壌消毒に加えて、クロタラリアやギニアグラスなどの対抗植物を利用(図3B)すると土壌中のネコブセンチュウ密度を低下させることができるため、さらに防除効果を向上させることができる。一例として、ネコブセンチュウが多発したヤマトイモほ場では、夏期に対抗植物を栽培した後にトラクターでほ場にすき込み、翌春にD-D剤で土壌消毒すると、D-D剤のみの場合よりもネコブセンチュウの防除効果がより高くなる(6)。対抗植物の作付けは、それ自体を緑肥として有機物補給に利用できるほか、栽培により、土壌の透水性・保水性の改善にもつながり、肥料持ちがよくなるため、環境負荷の軽減も期待できる。ただ、対抗植物が十分に分解されずに残ってしまうと、土壌消毒剤のガスが土壌中にまんべんなく拡散できず、効果が不安定となるだけでなく、根部障害も発生しやすくなる。十分な分解のためには、すき込み時期が遅れないようにして腐熟期間を確保する必要がある(7,8)。
引用文献
- 農文協(編)(2004)「野菜園芸大百科第2版13『サトイモ・ナガイモ・レンコン・フキ・ミョウガ』」 農山漁村文化協会 p. 65-66,122.
- 高野光之亟・石川元一(1960)「ネコブセンチュウに対する殺線虫剤の効果について」 関東東山病害虫研究会年報 7: 69.
- 岩佐博邦・鈴木健司(2018)「千葉県のヤマトイモ産地における作付け体系ごとの土壌の貫入抵抗値及び化学性の特徴」 千葉農林総合研究センター研究報告 10: 103–109.
- 梅谷献二・岡田利承(編)(2003)「日本農業害虫大辞典」全国農村教育協会 p. 284.
- 小倉愉利子・関上直幸(2018)「ヤマトイモ栽培におけるガス難透過性フィルム(VIF)による土壌燻蒸剤の大気放出抑制効果および被覆資材と土壌燻蒸剤がネコブセンチュウ防除効果に及ぼす影響」 関東東山病害虫研究会報 65: 130–133.
- 大石剛裕ら(1993)「対抗植物とD-D剤によるヤマトイモのネコブセンチュウの防除効果」 関東東山病害虫研究会報 40: 303–304.
- 印旛農業事務所改良普及課(2016)「やまといも根部障害を軽減する土づくり」 千葉県農業改良普及情報ネットワーク フィールドノート 7361.
- 農研機構(2020)「緑肥利用マニュアル -土づくりと減肥を目指して-」