小俣 良介
はじめに
チャを加害するコナジラミ類は、古くは1960年代に静岡県の一部で発生したヤマモモコナジラミ(1)しか知られていなかった。しかし、2000年代に入ってからチャトゲコナジラミとヒサカキワタフキコナジラミによる被害が各地の茶産地で知られるようになった。このうち、茶生産において大きな被害をもたらすものはチャトゲコナジラミであり、最近ではほぼ全国の茶産地で確認されている。
ヒサカキワタフキコナジラミによる目立った被害はないが、暗い場所を好むと思われ、抹茶生産のために長期に被覆するような場合には新芽に産卵して被害が生じる恐れがあるため、本稿で紹介する。
チャを加害するコナジラミ類の被害の様子と生態
チャトゲコナジラミの発生は、新芽に多数の成虫が群がっていたり、茶畝の横の部分(すそ部)の葉が黒く汚れ始めたりすることで気づく。この害虫は海外から日本に侵入し(2, 3)、苗木の流通などにより急速に全国の茶産地に広がった。現在、防除技術の普及により、大半の地域で発生が抑えられているが、侵入したばかりの地域では、天敵も少ないために急激に発生する恐れがあり注意が必要である。 ヒサカキワタフキコナジラミはこれまではヒサカキのみで発生していたが、ごく最近チャに発生していることがわかり(4)、発生地域が増えている。チャトゲコナジラミとは見た目も被害の様子も大きく異なるため、容易に見分けられる。
1) チャトゲコナジラミ
この害虫の幼虫が葉裏に生息すると、吸汁した排泄物として分泌された大量の甘露が下葉に落ち、それを栄養に黒いカビが発生して、いわゆる「すす症」(図1A)となり、茶園全体が黒っぽくなって見える。 すす症が発生してはじめて、この害虫による被害に気づくことが多い。被害が大きくなると、すす症による葉の光合成能力の低下や幼虫による旺盛な吸汁加害により樹勢が低下するため、寒干害(低温や土壌の乾燥・凍結による水分不足)の影響を受けやすく、落葉することがある。また、番茶の生産などではすす症のすすが収穫物に混入すると茶の品質低下につながる(5)。
成虫は新芽の生育時期に新芽の葉裏に群がる(図1B)ため、収穫が近づくにつれてこの害虫の発生に気づくことも多い。収穫物に虫が混入する懸念、収穫作業時に作業者が飛び回る虫を吸引してしまうことや摘採機の吸気口のフィルターが目詰まりするなど、不快感を感じたり作業上の妨げになる。ただ、成虫が新芽を加害して吸汁痕を形成したり、新芽の成長が阻害されたりする被害はない。
成虫の体長は1ミリ前後で、前翅が肉眼で灰色に見え(正確には紫褐色)、白い紋がある(図1D)。年3~4回発生する。成虫は新芽に群がるものの、産卵は成葉や古葉に産卵するため、幼虫は主に茶樹の下位部やすそ部付近に生息する。幼虫は光沢のある小判型をしており、背面と周囲には刺毛(しもう:網状の突起)があり、体の周囲に白色のロウ物質をもつ(図1C)。
本種が初めて発生した際には、かんきつ類に寄生するミカントゲコナジラミがチャを加害し始めたものと考えられたが、成虫の白い紋の数や幼虫のロウ物質の幅の違いなどから新種と判明した。チャのほかにヒサカキ、サザンカ、サンショウ、シキミにも寄生する。
2) ヒサカキワタフキコナジラミ
チャ株内の地際の根元から出た新梢や新芽の葉裏に生息する。白く細長いろう状物質を持った幼虫が葉裏に多数付着する(図2A)のため、チャトゲコナジラミとは容易に判別できる。地際の新梢が少ない場合は、摘採面近くの葉に生息していることもある。暗い場所を好むと考えられ、収穫する新芽を吸汁することはほとんどないため、現在のところ栽培上の目立った被害はない。 しかし、チャトゲコナジラミとは異なり、新芽に大量の産卵を行う(図2B)ことから、覆い下栽培など長期にわたって遮光下で栽培する場合には、産卵による収穫芽の汚染や幼虫の白色の細長いろう状物質の収穫芽への混入などが懸念されるため、今後の発生状況を注視したい。
幼虫は前述のように白色の細長いろう状物質を体にまとっており(図2A)、幼虫の発育に伴って7ミリ前後まで発達する。成虫の体色は白く、体長は約1ミリで、新芽に大量の産卵を行う。
防除対策
1) チャトゲコナジラミ
早期発見
幼虫の早期発見に努める。茶樹の下位葉やすそ部の葉の表側が黒くなるすす症が生じていないか、これらの部位の葉裏に黒い幼虫の発生がないかを確認する。
越冬期防除
越冬期における幼虫の個体数がある程度減少した2~3月頃にマシン油乳剤を用いて実施するとよい。2回以上の散布は効果が高く、一番茶生育期の成虫の発生を抑えることができる。
薬剤防除
チャトゲコナジラミの防除時期は、同じくチャに寄生するクワシロカイガラムシの防除時期と重なることから、フェンピロキシメート・ブプロフェジン水和剤やピリフルキナゾン水和剤で同時防除ができる。また、地域限定農薬で使用できる生産者が限られるが、ピリプロキシフェンマイクロカプセル剤も同時防除が可能である。ただし、いずれもクワシロカイガラムシに合わせた防除の場合は1000L/10aとする。通常の防除の場合は、上記薬剤に加えて、クロルフェナピル水和剤やトルフェンピラド乳剤、ジアフェンチウロン水和剤などを、幼虫の主な生息部位であるすそ部を中心に、散布量は400L/10aとし、葉裏にしっかり薬液が付着するように散布する。年3~4回発生するため、若齢幼虫の発生時期(5月下旬、7月下旬、9月下旬)に散布する。
耕種的防除
一番茶摘採後に深刈りを実施し、卵や幼虫が付着している葉を除去する。ただし、この時期はクワシロカイガラムシのふ化幼虫の発生・分散時期でもあることから、深刈りによってクワシロカイガラムシのふ化幼虫が分散してしまわないように処理時期については注意する必要がある。専門家の指示を仰ぐとよい。
生物防除
茶園の周辺にバンカー植物(天敵昆虫の増殖を促す植物)としてナギナタガヤの草地帯を設置し、越冬期にナナホシテントウ等の捕食性の天敵昆虫を増やしておくことで、越冬世代のチャトゲコナジラミを減らす方法(6、7)がある。薬剤防除の補完技術として検討できる。
2) ヒサカキワタフキコナジラミ
現在のところ、ヒサカキワタフキコナジラミに対して使用できる薬剤はないが、現時点では前述のとおり対策の必要もない。しかし、ヒサカキワタフキコナジラミが生息する茶園は徐々に拡大しているものとみられる。摘採面直下の葉裏に多数生息するような茶園で、覆い下栽培等を計画しているほ場では、新芽への産卵、被害が懸念される。こうした場合には、最寄りの専門家に相談することをお勧めする。
引用文献
- 南川仁博・刑部勝(1979)「茶樹の害虫」 日本植物防疫協会 pp.1–2, pp.42–44.
- 山下幸司・林田吉王(2006) 「チャに寄生するミカントゲコナジラミに対する有効薬剤の探索と防除効果」 茶研報 101:25–28.
- 上宮健吉・吉安 裕・笠井 敦(2011)「チャを加害する新害虫 "チャトゲコナジラミ" 」植物防疫 65(9):521–524.
- 埼玉県病害虫防除所(2015)「平成27年度発生予察情報特殊報第1号」
- 農林水産部京都府農林水産技術センター 茶業研究所ホームページ (2023年1月10日閲覧)
- 小俣良介(2013)「茶のチャトゲコナジラミ クワシロとの同時防除、深刈り、ナギナタガヤが有効」 現代農業2013年6月号 pp.221–225.
- 小俣良介(2014)「茶園周辺のナギナタガヤ草地帯設置によるチャトゲコナジラミ越冬世代の抑制」 第58回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨(高知大学) pp.30.