サトイモ立枯細菌病が土壌消毒を行わずに防除できた!

レター
                                                             
東京大学大学院農学生命科学研究科
市川 和規

私は大学勤務の傍ら、山梨県から病害虫に関する技術アドバイザーとしての委託を受けていた。2019年夏、サトイモ(商標名:「やはたいも」)生産者から株の生育が不良で重症なものは枯れるので、その原因と対策を教えてほしいと依頼された。ここでは、その診断結果と防除対策について紹介する。

発病状況と種イモ管理

「やはたいも」は、山梨県甲斐市の西八幡地区で栽培されるブランドのサトイモで強い粘り気とモチモチとした食感等から高値で販売されている。現地調査をすると、栽培圃場の約50%で生育不良株がみられ、多発圃場では悪臭が漂い収穫皆無の圃場も散見された。生育不良株は、下葉から枯れ始め、立枯れとなった(図1)。茎は引っ張ると容易に抜けた。塊茎は悪臭を放ち、維管束が赤みを帯び、軟腐状態であった(図2)。組織を顕微鏡観察すると、細胞内での細菌の充満や菌泥が観察された。以上の結果から生育不良株をサトイモ立枯細菌病(病原菌:細菌のPectobacterium carotovorumあるいはDickeya sp.)と診断した。
同地域では本病が2004年に初確認され、イネとの輪作が行われたが、その後も数圃場で発生し被害の拡大が懸念されていた(1)。慣行栽培では種イモは、栽培終了後に掘り起こしたイモ塊(子イモや孫イモが付いた親イモ)を排水対策した土中で保存し、植え付け時に親イモ、子イモ、孫イモに分け使用していた。この方法では保存中に罹病種イモから感染・腐敗する被害がしばしば生じていた。また、種イモの生産者間の共有も行われており、これらのことが地域内の蔓延要因と考えられた。同地域では、サトイモ栽培の後に水稲を3年~5年間作付ける輪作が行われているが、種イモの選別や貯蔵も土壌病害対策として重要であるため、講習会を開いて生産者と情報共有をした。

  • 図1. 立枯細菌病の発病状況
  • 図2. 罹病塊茎の腐敗状況

防除対策の提案と実証

現場の栽培圃場は、住宅街と隣接していため土壌消毒剤の使用は難しいことから、現場に導入可能で、病原菌の生態を考慮した耕種的防除を以下のように提案した。①貯蔵前に健全な種イモ(子イモ、孫イモ)の選別を行う。②種イモはマス目のコンテナに入れ(図3)、排水対策をした土中で保存する。③植付け前に再度種イモ選別をし、健全イモを圃場に植え付け、親イモは種イモとしては使用しない。④栽培圃場には周囲に溝を掘り、排水対策を施す。
本病の激発圃場に水稲を3年間作付けて、上記の耕種的防除対策を施した「やはたいも」を2023年4月に定植、11月上旬に収穫した。2023年は記録的な猛暑で立枯細菌病の発生には好適な条件であったが、掘り起こしたイモに本病の発生は見られず、土壌消毒を行わない防除対策は成功したと考えられる。

  • 図3. 種イモ(子イモ)
このページの先頭へ戻る
ISSN 2758-5212 (online)