藤原 聡
はじめに
ハダニ、アザミウマ、アブラムシなどの微小害虫は、さまざまな農作物を加害し、減収や品質低下をもたらすため、体は小さくとも大害虫であり、油断してはいけない。しかも、あっという間に蔓延する繁殖力をもち、短期間に世代交代するため、変異が早く、殺虫剤抵抗性を獲得しやすいので防除が難しい。難防除とされるゆえんである。殺虫剤抵抗性とは、害虫に対して意図せず“適切でない方法”で同じ殺虫剤を連用した結果、表示どおりの殺虫剤の使い方では防除できなくなってしまった状態をいう。この抵抗性は、害虫の次世代に“遺伝して”しまう(1)。そこで、害虫の“適切な防除”に役立てるため、都道府県の病害虫防除所などが中心となって殺虫剤の効き目を調べ、情報提供している。しかし、効き目を調べる方法は、害虫の体が小さいこともあって、顕微鏡などの専門的な設備と技能、多大な労力を要する。そのため、生産者自身がこれに取り組むことは難しいばかりか、指導機関でも頻繁に調査することは困難である。こうした状況を打開するため、身近な道具を使って簡易に殺虫剤の効きやすさを調べる方法が、害虫ごとにいくつか考案されているので紹介する。
ハダニ類
イチゴの葉を具体的な材料として、「紙袋法」が考案されている(2)(図1)。イチゴの葉にハダニが寄生していることを確認したら、その葉を実用濃度の薬液に10秒間漬ける。葉を取り出し、口を開けて直立させた紙袋に入れる。その袋を室内に置き、24時間後に紙袋の口のへり(ぎざぎざになっていることが多い部分)を歩くハダニを観察する。歩行するハダニが多い薬剤は、効果が低い可能性が高い。
「紙袋法」を参考にして考案された方法に「封筒法」がある(3)(図2)。イチゴとナシの葉で試した結果が報告されている。長形3号の封筒を中央で山折りする。ハダニが寄生した葉を実用濃度の薬液に10秒間浸漬した後、封筒の中央山折より奥に入れ、口を閉じ、折り目を上にして室内に置く。24時間後、乾燥した葉を取り除き、封筒を机の上などで押し潰す。生き残ったハダニがいる場合には、乾燥した葉から移動して封筒内に残っているので、封筒を押し潰すと、ハダニも潰れ、痕が残される。封筒を切り開いて封筒の内側を観察し、潰れた痕が残っていれば、薬剤の効果が低下している可能性を疑う。
アザミウマ類
ソラマメの種子とアスパラガスの擬葉(ぎよう;食用部分が上の方に長く伸びて茂った部分)を材料に、チャック付きポリ袋を使った方法が考案されている(4)(図3)。種子や葉を実用濃度の薬液に10秒間浸漬し、余分な薬液を乾かした後、湿らせたろ紙とともに、チャック付きポリ袋(85×60×0.04 ㎜)に入れる。吸虫管を使ってネギアザミウマをポリ袋に入れた後、チャックを閉じる。24~48時間後、ルーペや実体顕微鏡を使って観察しながら、ポリ袋の上からアザミウマを刺激し、生死を判定して生存虫率を計算する。
アブラムシ類
イチゴ、ピーマン、モモの葉を用い、チャック付きポリ袋を使った方法が提案されている(5)(図4)。アブラムシが寄生する葉を切り取って実用濃度の薬液に10秒間浸漬し、余分な薬液を乾かした後、アブラムシが付いている面を上にしてチャック付きポリ袋(85×60×0.04 ㎜)に入れて密閉する。湿らせたペーパータオルを敷いたプラスチックケースにポリ袋を並べ入れ、室内で保管する。24時間後、ポリ袋を観察し、内側にアブラムシが排泄する甘露でできた水滴がある場合には、薬剤の効果が低下している可能性がある。なお、アブラムシの真上に繰り返し排泄された甘露でできる水滴は、肉眼で確認可能な0.5 mm以上の大きさになるため、水蒸気による結露の水滴とは見分けることができる。
引用文献
- 山本敦司 (2019) 「殺虫剤抵抗性管理 農業生産現場への普及の取組み」 植物防疫73: 766-773.
- 溝部信二・中川浩二・殿河内寿子 (2015) 「ハダニ類の簡易薬剤感受性検定法の開発」 山口農林総技セ研報6: 29-32.
- 藤原 聡・鹿島哲郎 (2019) 「封筒内の体液痕を利用したハダニ類の薬剤感受性の簡易な検定法」 関東東山病虫研報66: 118-122.
- 溝部信二・中川浩二 (2014) 「ネギアザミウマの簡易薬剤感受性検定法」 第19回農林害虫防除研究会徳島大会講演要旨.
- 溝部信二 (2018) 「甘露排泄を利用したアブラムシ類の簡易薬剤感受性検定法」 植物防疫72: 592-597.