笹部 雄作
はじめに
“樹木を診断してもらいたい”という時に誰に頼んだらよいのか?なかなか一般の方にはイメージが湧かないと思われる。それもそのはずで、樹木には果樹や花木という農作物もあれば、緑化(庭木、街路樹など)や森林の分野も存在する。そして診断者の資格にも“植物医師”や“樹木医”といった資格がある。これら樹木や資格の違いを把握して適切に診断を依頼するにはどうしたら良いだろうか?ここでは樹木医と植物医師の両方を取得している立場から、両資格を俯瞰して説明してみたい。
樹木医とは
樹木医は一般財団法人 日本緑化センターが認定する民間資格である。取得者は造園業者から公官庁の職員、あるいはハウスメーカーやコンサルタント関係者など幅広く、意外とデスクワーク主体の方も取得されている。樹木医の診断手法は主に“外観診断”で行われており、病原の感染や生理的な衰弱を見た目から見分けていくことが主体となる。診断機器の使用(図1:レジストグラフ)についても、外観診断を補完する目的で使用されることが大半である。
植物医師とは
植物医師は国家資格である技術士(農業部門・植物保護)を合格後、一般社団法人 日本植物医科学協会(1)による植物医師認定審査をパスした者が取得できる民間資格である。取得者は都道府県や国の公的研究機関、農業関連法人、大学に多い。資格条件として植物の保護に関わる専門的な科学技術と一定以上の実務経験を有する。病原や生理面での反応を様々な診断機器を用いて科学的に分析することで、樹木の状態を総合的に診断する。
樹木医と植物医師の診断・処置を比較すると
図2に樹木の衰退要因(2)を示した。このうち、領域1が樹木医の携わる診断範囲である。一方で領域2が植物医師のカバーする診断範囲で、より細かな原因の判定まで担う(判定の深度が深い)。例えば、沿岸部に植栽されたヤマモモに現れた葉の褐変と枯れ(図3A)を診断する場合を考えてみると、
① 外観からは(病害の図鑑などで見比べると)潮風による影響か?あるいはヤマモモの疫病(3)ないしペスタロチア病(4)では?という判断になる。また、このヤマモモの隣にある別のヤマモモ(図3B)では特には際立った枯れ葉があるわけではないが、葉の葉脈に沿った小さな傷跡のような部位が散見され、一見すると強い風で生じた傷にも見える。
② しかしこれらの部位を顕微鏡で観察すると、依然ペスタロチア(Pestalotia)属に分類されていたペスタロチオプシス菌(Pestalotiopsis. sp)の特徴を持つ紡錘形の分生子が見えるため、ペスタロチア病であると判定される(図3C)。
この例では①が樹木医としての判定で、②が植物医師としての判定である。ここから総合的な判定と処置方法の検討に進む。処置方法を検討する段階において、①外観からの判定のみを基にした場合では原因の候補が3種以上あり、その3つないし、不明な原因に対処すべく、土壌改良や潅水など受け皿の広い対処方法や、他の方法を織り交ぜた組み合わせが処置案になる。これがおおよそ一般的な樹木医の診断と処置方法としてイメージされるものである。一方、②の植物医師としての判定に基づくと、処置方法はヤマモモのペスタロチア病への対策が主軸となり、病害の対応を軸に今年度、次年度のヤマモモへの影響と経済的な許容範囲を勘案しながら病害を押さえていくことが処置案となる。
ではどちらに相談したら?
樹木医の得意分野は、街路樹の危険木診断や庭木・緑地の木の維持管理であり、基本的に“見た目”から捉えたアドバイスなどを提供する。一方で植物医師の得意分野は果樹や花木などの農作物が中心となるが、緑化の分野を得意とする植物医師もいる。見た目だけでは判定できない衰弱要因の精細な見極めと対策を提供できる点が植物医師の強みである。お悩みの案件が見た目からの判定でも充分な場合はさておき、より精細な原因の究明とその原因に対応した処置案をお望みの場合は、植物医師に相談してはいかがだろうか?