竪石 秀明
はじめに
対象病害に登録のある農薬(殺菌剤)を散布したのに効かない、あるいは効果がはっきりしない、というような経験はないだろうか。それは予防剤と治療剤の使い分けが不適切だったのかもしれない。
予防剤(予防効果)、治療剤(治療効果)とは
一般に病原菌が感染してから病斑などの症状が現れるまでには時間差(潜伏期間)がある(図1A)。予防剤とは病原菌の胞子などが付着してもその後の感染、植物体への侵入を阻止する作用が主である薬剤で、植物体表面にバリアのような層を作り、病害が発生する前に散布することで高い防除効果を発揮する(図1B)。これらの薬剤は多作用点を持ち、耐性菌が出現しないことが特徴である。
一方、治療剤は、散布後に植物体内への浸透移行性があり、植物体内に既に感染して侵入している病原菌を抑える作用のある薬剤である(図1C)。病害が発生した後にでも使用でき、病害の進行を抑えて圃場への更なるまん延を防ぐ手段となる。近年開発された殺菌剤は浸透移行性に優れているものが多くある。しかし治療剤といっても人のけがや病気が以前のように回復するということではなく、発生してしまった病斑などは元通りにはならない。また病原菌に特異的な単一の作用性を持つため、耐性菌の出現も懸念される。
植物の病害を効率的に防除するには
これら予防剤と治療剤をうまく使い分けることが効率的な病害防除につながる。基本的には予防効果主体の薬剤散布の方が結果的に病害発生を最小に抑えられると言える。防除暦などを参考に時期や気候的に病害発生が予想される時に予防剤の散布を行い、感染が予想される場合や既に病徴が見られ始めた時には治療剤の散布を行うことが重要である。また、予防剤と治療剤の混合剤、双方の効果を有する薬剤があるので、登録病害の確認だけでなく薬剤の性質と病害の進行状況を判断して使用する必要がある。代表例を下表(1)に示す。