前島 健作
はじめに
イチジクは江戸時代初期に日本に伝わった果樹で、栽培のしやすさから全国各地で営農栽培されており、一般家庭でもポピュラーな果物のひとつである。イチジクモザイク病は60年以上前から知られる病気で、当初その病因はウイルスと推定されたものの、その後イチジクモンサビダニを病因とする提案がなされた。近年になってこのダニに媒介されるイチジクモザイクウイルス(fig mosaic emaravirus, FMV)が病因であることがわかってきた(1)。ここでは、イチジク栽培で問題となるモザイク病の特徴と防除方法について紹介する。
症状
葉の緑が薄くなる退緑が典型的な症状である(図1)。ただし、そのパターンはモザイク、斑点、輪紋、葉脈沿いに生じる退緑などさまざまで、退緑部分が赤褐色に縁取られる場合もある。葉脈に沿う退緑はしばしば萎縮を伴い、葉が奇形になる。激しい場合は早期に落葉したり枝の伸長や着果が抑制されたりする。果実にも退緑症状や早期落果を引き起こし、品質低下や減収の原因となる。これらの症状は、全身で一様に発生するわけではなく、しばしば発病枝と無症状の枝が混在する。現在のところ、国内でイチジクのウイルス病はモザイク病のみなので、このようなウイルス性の症状が認められた場合は本病の可能性が高い。
診断
イチジクモザイク病自体は古くから知られているものの、診断技術が確立されたのはFMVの発見以降のことである。本病の高感度かつ簡便な診断技術としては、RT-LAMP法による遺伝子診断キットが開発・製品化されている(2)。爪楊枝で植物組織を突くだけでサンプリングでき、15〜60分の反応時間で判定できる。この技術を用いて感染イチジクの葉を検査すると、症状のある部分は陽性となり、症状のない部分は陰性となる。つまり、症状とFMVの有無はよく一致しており、遺伝子診断は発病部位に対して実施する必要がある。
伝染経路
FMVはイチジクモンサビダニにより媒介される。このダニは体長わずか0.1〜0.2 mmであり、肉眼(見分けの限界が約0.1 mm)で認識するのはかなり難しい(図2)。イチジクの休眠芽内で越冬し、翌年の伝染源となる。また、感染樹の挿し木や接ぎ木も伝染経路として重要である。イチジクは一般に挿し木で増殖されるため、おおもとの母樹がウイルスに汚染していると、挿し木苗や切り枝の流通とともに病気が遠方へと(時には国境を越えて)運ばれてしまう。流通した先でイチジクモンサビダニを介して健全樹に伝染することで、被害が拡大する。
防除方法
イチジクを挿し木増殖する際は、必ず健全樹から採穂する。近頃は国内でも様々な品種が知られるようになってきているが、珍しい品種だからといって不用意に購入するとウイルス汚染のリスクがあるかも知れない。例えば、不特定多数の利用者が出品するフリマサイトでは希少品種が高値で取引されているが、中には明らかにモザイク病と思われる苗が存在する。外部から新たにイチジクを導入する際は、本病の発生がないことを確認できる業者を利用することが望ましい。
イチジクモザイク病の発生には、病因であるFMVに加えて、媒介者であるイチジクモンサビダニの存在も重要である。すでに本病の発生が認められる場合、感染樹を特定し除去するとともに、イチジクモンサビダニの防除を行う。イチジクモンサビダニに登録のある農薬は、2023年9月現在、フェンピロキシメート剤、ピリダベン剤、テブフェンピラド剤があり、石灰硫黄合剤も使用できる(3)。浸透移行性はないため、薬液がかからなかった部位や散布後に展開した葉での防除効果は期待できない。葉裏には薬液がよくかかるように心がける。また、石灰硫黄合剤以外の薬剤は、薬剤耐性の発達を抑えるために、使用回数の制限に留意して異なる薬剤をローテーションで使用する。イチジクモンサビダニを捕食する天敵としては、カブリダニ類とコハリダニ類が知られている(4)。ただし、上記薬剤はこれら天敵に対しても殺ダニ効果が認められる場合があるため(5)、天敵を活用する場合は薬剤の影響について考慮する必要がある。