黒木 修一
はじめに
キュウリは全国各地で栽培されている。地域の気候に合わせて様々な作型があり、春〜秋には露地畑や雨よけ施設で、秋〜初夏にかけてはビニルハウスなどの暖房施設を備えた施設で栽培されている。このため、発生する植物病も作型や地域に特有のものがある。ここでは、秋〜初夏にかけ9ヶ月に及ぶこともある促成栽培キュウリにおける主要な害虫類の総合防除について考えてみたい。
問題となる害虫
西南暖地の促成キュウリにおける害虫類の被害は、土壌線虫を除くとミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミ、ワタアブラムシなどの微小害虫によるものが大きく、これらの媒介するウイルス類の発生が被害を更に大きくしている。いずれも、高度な薬剤抵抗性を獲得している場合が多く、薬剤に頼った防除には限界がある。
総合防除とは
病害虫の総合的防除法とは、様々な防除法を組み合わせ防除しようとするものである。基本的には防虫ネットなどを使用する物理的防除法、化学農薬を使用する化学的防除法、天敵や微生物を用いる生物的防除法、そして品種・作型・施肥・栽培を工夫する耕種的防除法の4つを合理的に組み合わせて行う。
害虫対策のタイミング
促成栽培は、害虫の発生が多い季節を避けた作型であるため、これ自体が害虫対策の耕種的防除であり、被覆資材は物理的防除となる。このため、ウリノメイガやハスモンヨトウなどのチョウ目害虫の発生は抑制される。更に、促成栽培では作期中の大半は外気温が低いため、ほとんどの害虫の侵入機会は少なくなる。例えば、最重要害虫の一つであるミナミキイロアザミウマの飛翔は、外気温で最高気温がおおむね20℃ を超える日に限られる(図1)。このため、栽培施設に侵入してくる害虫の防除が重要かつ必要なのは、定植前後から11月ごろまでである。冬季でも気温が上がることがあるので安心は出来ないが、基本的に冬季は施設外から施設内に害虫類が侵入してくることが無いため、定植前後の防除をしっかり行うことで、その後の期間は化学農薬よりも速効性が劣る生物農薬(図2、図3)でも十分に対応できる。
準備で決まる総合防除
栽培を開始すると防除手段は薬剤の散布や生物農薬の利用に限られてくるので、次作までの準備期間中に耕種的・物理的防除法のうち実施できるものを怠らず実施する必要がある。
防虫ネットなどを適切に設置すれば、相当に効果がある(図4)。紫外線除去フィルムによる施設の被覆や、施設周囲における抑草シート、光反射マルチを組み合わせれば、格段に防除効果が上がる(図5)。
栽培期間中の防除
殺虫剤は育苗期から施用する。また、定植時に長期間の効果があるジノテフラン粒剤の植穴土壌混和処理やシアントラニリプロール水和剤の潅注を行い、害虫類の発生を予防する。更に定植したらフルキサメタミド乳剤を散布し、苗に付着して施設に侵入する害虫類を徹底的に防除する。これにより、定植作業に伴い施設に侵入する害虫にほぼ対応できる。あとは、摘心直後にスワルスキーカブリダニを2回放飼すれば、長期的防除効果が得られる。このとき、パック製剤を使用すると防除効果が安定し、キュウリ黄化えそ病(MYSV)にも対応できる。
イメージとしては、定植前後の化学農薬の利用から、生物農薬の利用にシフトしていくというものである。
収量と品質向上につながる総合防除
総合防除は、使用する農薬や資材だけでなく、自分の作型に関係する気象や栽培管理などを理解するほど、資材や技術を有効に組み合わせることができる。複雑だが、防除効果が安定すれば防除労力が削減され、その分を栽培管理に活用できる。分からないことがあれば、植物医師®など専門家の助言を受けるとよい。