岩舘 康哉
はじめに
キュウリを栽培していると、茎や葉が突然しおれて、そのまま枯死してしまうことがある。しおれの発生原因は下表に示すとおり様々あるが、ここでは、病害虫によるものについて見分け方を解説する。また、その中でも、近年特に被害が大きいホモプシス根腐病は、見分け方とともに発生の実態や伝染経路についても説明する。
1)ウイルス病(図1A)
病原:ウイルス
ウイルス病の病徴のひとつとして茎や葉がしおれる場合がある。キュウリモザイクウイルスやズッキーニ黄斑モザイクウイルスなど異なる複数のウイルスが重複して感染すると激しい病徴を示す。ズッキーニ黄斑モザイクウイルスは単独感染でもしおれを生じる。葉の色がまだらになるモザイク症状や、果実の奇形症状を伴うことが多く、他の原因と区別できる。原因となるウイルスには、キュウリモザイクウイルス(cucumber mosaic virus、CMV)、ズッキーニ黄斑モザイクウイルス(zucchini yellow mosaic virus、ZYMV)、カボチャモザイクウイルス(watermelon mosaic virus 2、WMV-2)などがある。
2)ネコブセンチュウ害(図1B)
病原:センチュウの一種
センチュウの寄生によって茎や葉がしおれることがある。葉が黄色くなる黄化や株の生育不良を伴い、根に特徴的なコブが多数形成されることから、他の原因と区別できる。原因となるセンチュウはMeloidgyne incognita (サツマイモネコブセンチュウ)、Meloidogyne hapla (キタネコブセンチュウ)などである。
3)つる枯病(図1C)
病原:カビ(糸状菌の一種)
主に茎で発病し、地際部や中途の節に発生することが多く、発病部位より上部の茎や葉がしおれる。病斑は、軟化するが乾くと灰白色となり、亀裂を生じてヤニを出す。病斑が古くなると表面に黒色の小さな粒ができる。葉や果実に発病することもある。病原菌は、Didymella bryoniae である。
4)つる割病(図1D)
病原:カビ(糸状菌の一種)
茎の地際部が赤褐色に変色し、変色部からはヤニを出す。病斑部には白色~淡橙色のかびが生じる。この病斑部は茎に沿って縦長に形成され、のちに亀裂が生じて割れ目ができる。発病部より上部の茎や葉はしおれ、根および茎の導管部は褐変する。病原菌は、Fusarium oxysporum f. sp. cucumerinum である。
5)疫病、灰色疫病(図1E)
病原:カビ(糸状菌の一種)
葉、茎、果実などに発病する。茎の地際部で発生すると、暗緑色、水浸状の病斑を生じて発病部から上部の茎や葉がしおれる。畑が冠水した場合に発生が多くなる。発病がみられる畑では、果実にも暗緑色の病斑が形成され白色の菌糸が観察されることが多い。病原菌は、Phytophthora melonis (疫病)、Phytophthora nicotianae (疫病)、Phytophthora capsici (灰色疫病)である。
6)黒点根腐病(図1F)
病原:カビ(糸状菌の一種)
しおれが発生した直後は、目立った病徴がなく、根の褐変が観察される程度である。やがて、根の表面に黒色の小さなブツブツ(子のう殻)が多数形成される。病原菌は、Monosporascus cannonballus である。
7)ホモプシス根腐病(図2A~F)
病原:カビ(糸状菌の一種)
しおれが発生した直後は、黒点根腐病と同様に目立った病徴がなく、根に褐変が観察される程度である。やがて根の表面に黒炭のような塊(偽子座)が多数形成され、黒点根腐病とは区別ができる。病原菌は、Diaporthe sclerotioides (syn. Phomopsis sclerotioides )である。この病気は、ウリ科作物にのみ感染するが、しおれと枯死を生じさせ(4)、経済的損失が著しい。国内では1983年にはじめて確認され(1)、以降発生地域が拡大し、現在は関東や東北地方で特に問題になっている(3)。最近、北海道でも発生が確認された(2)。
ホモプシス根腐病の伝染経路
ホモプシス根腐病は、土壌より発生する。根に形成された黒炭状の耐久生存器官(偽子座、図2E-F)が、感染植物の残渣とともに土中に残存して汚染土壌となり、次作の伝染源になる。病原菌は、汚染土壌や感染苗の畑への持ち込みによって広がる。未発生地域では、地域全体の意識啓発と侵入防止対策の徹底が重要である。具体的には、由来が明らかでない苗(もらいもの、試供品)は植えないこと、畑に他人をむやみに入れないこと、農機具の共有による汚染土壌の持ち込みに注意することが大切である。たとえ栽培期間中にしおれ症状が発生しなかったとしても、栽培終了後に根を引き抜いて洗浄し、根の発病の有無を観察しておくことも有効である。これにより病原菌の感染を早期に発見し、しおれ症状が畑で発生する前に対策を考えることができる。