白石 俊昌
はじめに
群馬県利根沼田地方の8月定植のブロッコリーに2021年から黒すす病の発生が多発するようになり、その後、被害は拡大傾向にある。最近食卓に出されるブロッコリーにもこの症状が散見されるようになった。葉に初期症状が発生した時に気付けば、効果的に圃場で防除することができる。
症状
初めにブロッコリーの下葉や葉柄に小型の病斑(小黒点状)が発生し、やがて輪紋状の病斑に進展する。現場では一畦に二条植えで、やや密植ぎみの栽培が行われているため、畦内部が混み合い、黒すす病の初期症状である下葉や葉柄に生じる病斑に気づくのが遅れることが多い。このあとに薬剤防除を開始したのでは効果は望めない。下葉や葉柄の病斑が進展すると花蕾の一部が黒く変色して発病が確認できる。黒変は放置すると徐々に拡大して花蕾全体に及ぶようになる(1)。防除時期を逃すと花蕾に黒変が激発するため、品質不良でほとんど出荷不能となる場合が多い(2)。昨年から今年にかけて、利根沼田地方の圃場では花蕾にまで発病が進み、全く収獲できない圃場がかなり発生している。現地で観察したところ、下葉の発生に気づかず、防除開始時期に遅れることが、後の花蕾病斑の発生に繋がっていると考えられる。このほか、品種により抵抗性に差があるという報告もあるが、明確な情報ではない。
診断
本病に似た病害に、バクテリア(細菌)による花蕾腐敗病(からいふはいびょう)があるが、発生時期が異なる。カビ(糸状菌)による黒すす病は秋口にかけて発病が増加する。また、花蕾腐敗病の症状は水浸状で進展するが、黒すす病ではやや乾いていて、水浸状病斑にはならない。黒すす病の病原菌は糸状菌のAlternaria brassicicola である。
防除法
薬剤防除が今のところ対応策の中心である。群馬県沼田地方の生産者は特別栽培農産物としての認証(3)を目指しているため、できるだけ薬剤散布を減らしたいと考えている。その結果、防除が手遅れになる場面が多く、このことが発病を助長していると思われる。ブロッコリー黒すす病の農薬には現在のところ8剤が登録されている(4)。現場ではアゾキシストロビン水和剤が多く使われている。本年度では発病初期の防除に混合剤のピラクロストロビン・ボスカリド水和剤の効果が高いことが報告されている。ただ、薬剤の連用による薬剤耐性菌の発生にも注意が必要である。発病圃場では被害株が放置される例が多くあり、これが次作の発病を助長していることも考えられる。そこで、被害株はできるだけ早く圃場にすき込むことで圃場の病原菌密度を減少させ、次作の発病減少に繋げることが期待できる。